殴るぞ

色々と思いっきり話します。

藤原正和・舟津彰馬「1年生監督と1年生主将」

「外部からは心無い声をいただきました。でも、自分たちはやれると思ってやってきました! それに対して、誰も文句は言いません! もし、先輩方に文句を言うような方がいらっしゃれば、自分が受けて立ちます! 自分に全てぶつけてください! 先輩たちを悪く言うような人がいれば、自分は許しません!」

 熱い言葉だった。その言葉に、周囲からはすすり泣く声も聞こえた。

 中央大学の予選敗退。87年連続で箱根を走ってきた名門校が、今年は正月の箱根を走らない。2013年の箱根駅伝での途中棄権を最後に、シードを守ってきていた名門校はゆっくりと弱体化していった。前回大会こそ、エースと期待されていた徳永照選手の不調が響いて後が続かなかったという誤算はあった。しかし、緩やかにそして確かに中央大は弱体化していたのだ。

 事実、今回の予選会で中央大学の予選突破を予想していた人は少ない。エースの不調と、各選手たちの伸びないタイムから、出場を不安視していた人は多くいたのは事実だ。私も、その一人だった。

 それを敏感に感じ取っていたのは藤原正和新監督。浦田春生コーチに代わり新監督に就任し、4年間の3大駅伝全てに出場してきたエリートランナーは、あまりにだらけた学生たちの生活に愕然としたという。そこから学生たちの意識を改革、事実関東インカレまでは予定通りにチーム作りが行っていたのだという。

 それが暗転したのが、6月。エースとしての働きを期待されていた町澤大雅くんが体調不良で欠場、それに引っ張られるかのように全日本駅伝予選では参加校20チーム中17位。うち2校は棄権で、それも予選突破ギリギリのラインにいた学校。実質的に19位で惨敗だったのだ。主将を務めていた新垣魁都くんは故障がちでどうしてもチームから離れないといけない。そのため、藤原監督は主将を交代させるという荒療治に出る。

 当初、藤原監督は名前こそ明かさなかったが4年生にする予定だったという。しかし、その就任時のミーティングがわずか3分で終了したことにより、4年生に引っ張る力があるか疑問に思ったのだという。

「中央大は予選会を突破するだけではなく、本戦で結果を出さないといけないチームです。その目標をこのスピード感で達成できるのか。4年生が難しいなら3年生と思ったんですけど、選手として走っているのは3名だけで、4年生と比べても強くない。2年生は競技に対する意識がまだ高くない。それならば、危機感を持っていて、勢いもある1年生に主将と副将を託そうと思ったんです」

 そして、主将に就任したのは1年生の舟津彰馬くん、田母神一喜くんだった。

 冒頭のコメントは舟津くんが大学関係者を集めて行った、成績報告会での言葉である。多くの報道陣と大学関係者を前にして堂々とした素晴らしいスピーチだったと思う。彼もまた、高校時代は名の知れたランナーではなかった。しかし、主将就任後はめきめきと力を付け、5000メートル走で13分58秒のタイムを記録するなど、チームの中でも重要な戦力となっていった。今回の予選では115位。チーム内でも真ん中ではあったが、エースの町澤くんの不調、1年生主将という想像を絶するほどの重圧。色々あったことと思う。

「あいつが矢面に立たされていたら、本来は俺たちが守らなきゃいけないのに」。4年生の町澤くんが零した言葉が、ある意味ですべてだったのだと思う。

 それでも彼は周囲の助けを借りながら、必死にもがき続けた。7月に就任してから約4ヶ月。チームの雰囲気を結果という形で変えることはできなかったが、彼自身の大きな成長に繋がったのではないだろうか。それは競技者としても、である。

 そして、彼には意地があった。そして一緒に過ごしてきた先輩たちへの想いがあった。呆然と立ち尽くし、膝に手をついてしまう選手もいる中で、彼は一人のリーダーであり、大きな成長を遂げたことを示してくれたのだ。負けは負けだ。今更変更はできない。それでも、藤原監督が施した荒療治はきっと、効果があったのだろうと思う。

「この敗戦を忘れるつもりはありません」。

 87大会連続出場記録が途切れたかつての名門校は、再び新しいスタートとなる。舟津くんの言葉は熱意があり、若さゆえの熱いものが込められていた。本当に強くなるのは10年かかると零した藤原監督。まだまだ改革は始まったばかりだ。

 終始うつむき加減で涙をこらえていた若い監督と若い主将のチーム再建はこれから始まる。経験豊富な4年生が退き、実戦経験の少ない3年生たちを中心としたスタートは困難を極めるだろう。

「これからはチャレンジャー。思い切ってやっていきます」と言い切った舟津くん。年数にして93年ぶりに箱根路を走らない中央大学。実に私の祖父と年齢が同じくらい時間が経過していた。この新たなスタートを晴らすのは、箱根しかないだろう。

 来年、予選会で中央大学がどれだけ生まれ変わっているのか。この時期の学生は、たった1年で驚くほど成長するのだ。

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