殴るぞ

色々と思いっきり話します。

中谷圭佑「次第に似てくるシルエット」

 そのシルエットは、徐々に先輩の中村匠吾選手に似てきていた。駒澤の3年生エース、中谷圭佑くんである。3大駅伝では台風で中止になった2014年の出雲駅伝を除いて全て出場。ブレーキになることなくきっちりと走る能力は中村選手のそれだ。瀬古俊彦さんからは、最もマラソンに近い選手と言われた中村選手と中谷くんがここまで雰囲気も似ているように見えるのは偶然だろうか。

 3区区間2位。今回も中谷くんは最低限の結果を残した。1区の其田健也くんが区間13位と誤算に終わった中でも、工藤くんや中谷くんが結果を出したことは来年の箱根駅伝に向けても大きな自信となったに違いない。思うと中谷くんは駒澤で育ち、駒澤でエースとなるべく育ったランナーとも言える。入学時には西山雄介くんが注目されていたし、中村選手もタイム的には同級生の村山謙太選手に隠れていたと言ってもいい。しかし、駅伝となると違った。

 中谷くんも中村選手も駅伝ではめっぽう強い。安定感が抜群なのだ。大きく外さないし、できることをきっちりとやり切る「仕事人」。駅伝の名門校としても知られる西脇工業で鍛えられた駅伝の強さとセンス。中谷くんに言わせると「トラックが得意」とのことだが、とてもではないがそうは見えない。むしろロードも得意なのではないかと思うほど。

 思うと駒澤大学にはこういう仕事人が多くいて、チームで駅伝を戦うことが徹底されているように思える。宇賀地強選手はタイムはもちろんだが気持ちで気後れしないファイトある走りが持ち味のランナーであるし、堺晃一さんや島村清孝さん、安西秀幸選手という箱根で躍動した選手を多く輩出してきている。20年以上も強豪・駒澤大学であり続け、なおかつほとんどの大会で3位以内に入る強さ。青山学院大学東洋大学が力をつけている中でも、強豪であり続けている。中谷くんはその中で来年、最上級生になる。

 青山学院大学には「四天王」と呼ばれたうちの久保田くんと神野くん、そして小椋くんが卒業する。東洋大学も服部勇馬くんが卒業する。自ずと3年生に「強い」ランナーがいるチームが駅伝においては優勝候補として目され易い。西山くんは往路のスピード感の経験がない部分で不安は残るし、2年生にして2区を任された工藤くんも絶対的なエースではない。山登りの5区で大塚くんがある程度の計算が立ったとはいえ、当然それだけでは勝利できないのが実情だ。おのずと、中谷くんにかかる責任は大きくなってくる。

 駅伝は陸上競技の中でもかなり特殊なスポーツである。世界を見渡してもロードでタスキをつなぎながら走る競技はないし、個人の能力にスポットが当たりながらもチームで戦うスポーツでもある。そして何より、選手一人ひとりに対するメンタルが重要視されるスポーツというのも、他にはないほどだ。スポーツにおいて、フィジカルコンディションと同じだけ重要とされるメンタルのコンディション。いかに一定に保った上で闘えるかは競技の結果にも直結する。学生は特にメンタルで左右されてしまうもの。だからこそ、安定して結果を出す走者は指導者からも重宝される。中谷くんは安定している。そして高いレベルでの結果を出している。だからこそ、彼はエースとならねばならないし、私は彼の雰囲気と中村選手を重ねたのだ。

 4年生が味のある走りをしたチームは駅伝で優勝する。トラックレースハーフマラソンで結果を出しても、駅伝はそれに強さを要求されてくる。メンタルの強さ、当日までの調整能力。全てを経験してきっちりと結果を出せるのは4年生だからこそだ。彼がきっちりと走れば、チームの雰囲気は「行ける」となる。そういうレースができた時に、駒澤は躍進するだろう。それは中村選手が4年生の時に託されたものであるし、歴代の箱根ランナーたちが監督から託された「想い」でもある。今回ダニエル・ムイバ・キトニーくんが区間賞を獲得したにもかかわらず、シードを逃した日大とスピードランナーが結果を残せなくても上級生が踏ん張ってシードを獲った東海大学とでは、そういう差があったのだ。区間賞こそ獲れずとも粘ってきっちりと走ることをすれば駒澤レベルであれば総合優勝は可能だろう。

 当然、そこにはレベルの高いランナーのいる「2強」や、ハイレベルな選手たちが育っている早稲田大学の牙城を崩さなければならない。そんなレベルの高い対決を制するには、やはり序盤からガンガンと闘えるランナーであることを求められる。駒澤であればただ一人。中谷くんしかいないと私は考えている。高速レースにも耐えられるスピードとロードの強さ。もちろん、そんなランナーは日本中探してもそうそういるものではない。しかし、中谷くんならばやれると感じる。

 チームに勢いを与えて勝ちをもたらすランナーになることができるかどうか。この1年は彼にとっても大きな挑戦となりそうで、今から楽しみでもある。