殴るぞ

色々と思いっきり話します。

遠藤日向「未来」

 学法石川高校のエースであり、将来を嘱望されている高速ランナーが遠藤日向くんだ。3000メートル走の高校生記録を保持している若武者は、高校生にして唯一の7分台のランナーである。加えて、5000メートル走でも佐藤秀和さんが記録した13分39秒87という高校生記録に挑むなど、トラックレースで低迷の続く日本陸上界の新たなる才能として注目が集まっている。1500メートル走でも高校歴代7位の記録を持つ。まさしく中長距離のトラックレースにおける日本のホープであろう。

 胸をしっかりと張った上半身。ばねのように伸びやかに跳ねる下半身。二つの動きが連動しており、全力を出しているようでまだ余力があるように見える身体のしなやかさがある。地面を蹴る度に身体が反発しているのが良く分かるのだ。これは、身体をうまく使って前へと進んでいる何よりの証拠である。逸材と呼ぶにふさわしいランナーではないだろうか。

 さて、そんな彼は早い段階で住友電工への就職を決意した。遠藤くんは昨年の今頃からすでにスピードランナーとしても名は知られており、箱根駅伝に出るために大学進学をするということを考えていた方も多いのではないだろうか。しかし、彼が見据えていたのはトラックでのオリンピック出場。そうなってくるとどうしても弊害として出てきてしまうのが「駅伝」だった。

「大学では箱根駅伝があるので、どうしても長距離メインの練習になる。僕はトラックで世界を目指したいので、早い時期からスピードを鍛える練習をしたい」

 遠藤くんは早くから長距離のロードレースでは無く、中長距離のトラックレースで勝負したいと考えているようだ。そこで選んだのが渡辺康幸さんが指導している住友電工だった。

「決めたのは渡辺監督がいるからです。コーチングスキルが高くて、現役時代も一流。話を聞いて自分の中でグッとくるものがありました」

 教え子には竹澤健介選手や大迫傑選手とオリンピックを経験した選手たちがいる上に、早くからトラックレースに集中することでロードでの不要なプレッシャーから解放されて競技に集中することができるのは大きなメリットだろう。

 加えて、大学に進学しないことは(学歴上では大きな痛手になるだろうが)選手たちにとっても大きなメリットとなり得る場合がある。以前当ブログで紹介した佐藤清治さんはまさにそうだった。佐藤さんの場合はもともと佐久長聖という新興校だったことで当時監督を務めていた両角速さんの指導も行き届く場所にあった。しかし、大所帯となる順天堂大学への進学後に伸び悩みそのまま現役を引退してしまった。

 遠藤くんが進学する住友電工の部員数は22名。決め手となった渡辺監督の指導を受けられることができる上に、少人数のため陸上と社業に専念できる環境に入ることができる。トラックに専念した上で東京オリンピックを狙うには十分に整った環境ではないだろうか。

 しかし、そんな彼にもまだ最後の戦いが残っているということを忘れてはいけない。学法石川として戦う、最後の駅伝だ。

 そのままトラックに専念することになると、遠藤くんにとってこの駅伝は最後のロードレースとなる。昨年目指していた優勝は、世羅高校の圧倒的な力の前に粉砕されてしまった。しかし、今大会は違う。頭一つ飛び抜けたチームはどこもなく、どの学校も接戦が予想される。

 そんな中で、遠藤くんが任される区間は競り合いが予想される1区と言われる。実現すれば、区間内でも最もスピードのあるランナーが序盤からレースを引っ張る展開になるということ。あえて外国人留学生がいる3区では無く、1区に起用する意図は「大逃げ」。つまり、彼に任されたミッションは完全に序盤でレースの主導権を握ること。

「良い状態で大会へ臨めそう」と話すのは、主将の瀬谷悠輔くん。総合力で勝る佐久長聖や、外国人留学生の存在感が大きい世羅と倉敷と比較しても個の能力ではいささか劣るのが現状。それでも何が起こるか分からないのが駅伝だ。エースが作り上げた流れをどれだけ乗ることができるのか。一つの大きな賭けに出たことになる。

 予選では納得いく走りができなかった遠藤くん。すでに目は明日の都大路へと向いている。

「県大会はエースとしての走りではなかった。都大路では自分の走りでチームに流れを引き寄せたい」と息巻く。もちろんレース展開にも依るが、かつて佐久長聖のエースだった上野裕一郎選手が叩き出した28分54秒の記録を出して、惜しまれつつロードから「引退」してほしい。

 あの跳ねあがるようなバネと、地面を蹴り上げるリズム。それは紛れもなく遠藤くんにしかない天性のものだ。かつて天才ランナーと持て囃された渡辺康幸さんの下で新たな物語が始まる前に、遠藤日向少年が高校での陸上物語をどのように終えるのか。明日12:30。西京極で号砲が鳴る。

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