テリトリアル

人と人が良い関係であるためには、良い距離感であるべき。そのためには良い位置でいることはとても大切。
というのはまあ、その通りだと思う。だけれど、関係値ってすさまじく大事だよって話でしてね。

そう思ったのは、昔片思いしていた人から送られてきたお祝いのメッセージ。もう2年前に片思いをしていた人からだった。

全く連絡も取っていなくて、せいぜいインスタくらいで近況を知る程度だった彼女。

そんな彼女からもらったお祝いのメッセージ。そこにはこの言葉があった。

「お互い頑張ろうね」。

何を指して頑張ろうなんだか、全く分からなかった。

この1年間、連絡を取り合うことがなかったからでもあるし、さしてこちらに興味を持っているというわけでも無かった彼女。
そんな人からの「お互い頑張ろう」。

まあ、社交辞令なのかもしれない。自分が「いい位置」で居たいがゆえの振る舞い。

「あざといな」と思った。もっと関係値があって、もっとこちらが鈍かったら、何も感じること無く終わったのだろうと思う。

ただ、これだけは言える。
もしその子に少しでも思恋慕を抱くこと無く居れば、友達として、結局引っかかることもなく終わったんだろう。
だけれど、結果として心に何かしら引っかかり、ある意味この2020年という1年の下半期最大の「謎」になっている。
もっとも、この「謎」を提示してくれたということには、いずれ感謝をしなければならないかもしれない。

それは「なぜ人はいい位置で居たがるのだろうか？」という疑問だ。

きっとさまざま理由がある。例えば、嫌われたくないという感情。

あるいは、程よい距離感でいることで自分にとって害をなさないようにしようという計算。

いずれにしてもそこにあるのは「この人にとって印象の良い人でありたい」という感情なんだろうと思うんだ。

そりゃあ人間なんだから、万人に嫌われたくはないと感じたり考えたりするのは、特段驚くことではない。ましてや目くじらを立てるような行為でもないんだろう。きっと自分も無意識の内にやってしまっている可能性は十分ある。

まあ、そうなんだよね。そりゃあ誰かにとって「いい人でいよう」とすることは人間なら当たり前にやるんだ。じゃあ、なぜこんなに引っかかっているのか。

多分彼女とは「これからも交わることがないだろう」という密かな実感があるから。いや、むしろ彼女が「交わることを避けている」事を感じられるから。

いやまあ、それならそれで構わないのだ。万人に受けるどころか、決して多くの人から受け入れられるような人物じゃないことを覚悟はしている。
それなのに「お互い頑張ろう」という上っ面の言葉にきっと引っかかったのだ。

上っ面だけで言葉を交わしても、そこからは何も生まれない。
それこそ「望む位置」に連れて行ってはくれない。
そして、「いい位置でいよう」としている様がバレた時に人間関係は破綻する。

本当に大切にしたい人ってのは、きっとそういう位置を意識しない、あざとさの無い人なんだと思う。

【テリトリアル】

きれいな服で着飾ったあの子はきっと、街のネオンの中を無邪気な顔で歩いていく。
全く交わることのない場所にいるはずなのに、まだヅカヅカとこちらのテリトリーに入れると思っている。
そんな都合のいい話があるかいな。

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