殴るぞ

色々と思いっきり話します。

ブラウグラナからの感謝

 最強のチームに君臨し続けた男は、最後に3冠を成し遂げてカンプ・ノウを去ることができるだろうか。チャビ・エルナンデス・クレウス。FCバルセロナの「心臓」にして、不世出のゲームメーカー。小柄な身体を隠すようにボディコンタクトをひらりと交わせば、そこからはかれの独壇場。バックパスを出すのか、メッシを活かすのか。頭の中に描かれたパスコースから、相手の一瞬の隙を付いて出されるパスを取ることはできない。まるで取られないことをわかっているかのように。

 ルイス・ファン・ハールにその才能を見出されたカタルーニャ人は「エル・ドリーム・チーム」と呼ばれたチームの「心臓」の下で、その感覚を磨く。ジョセップ・グァルディオラ。後に選手と監督として、関係を築くこととなるバルサ・アイドルである。現役時代、ヨハン・クライフの戦術の象徴として輝いたペップのように、チャビは同じオランダ人指揮官の下で、キープレイヤーとして輝き始めた。後に監督が交代しようとも、チャビの出場機会が減ることはなかった。それは中盤の絶対的な存在として、彼が欠かせない立場を作り出したからに他ならない。ラ・マシアで培ったボールを大切に扱う技術と、相手を見渡す戦術眼。双璧を成すのは恐らくアンドレア・ピルロ遠藤保仁くらいだろう。この3人が日本の学制で言ったら同学年に当たるのは、果たして偶然なのだろうか。

 実績を今更話すまでもないだろう。エル・ドリーム・チームを超えるタイトルを残したクラブ。スペインをEURO2連覇とワールドカップ初優勝に導いたのも、紛れもなく彼のゲームメーキングによるものである。世界は、誰もが酔いしれた。サッカーの「定説」すら覆してしまいそうなほどに。現に、誰もがそのサッカーに憧れて「表面だけでも」バルサを真似ようと模倣するクラブばかりが現れた。

 全盛期における彼の自信は言葉にも出た。節々にでるバルサへの自信と批判。自分たちが日常でやってきたことを、なぜほかのクラブではやらないのかという不満が透けて見えた。カタルーニャ出身のビッグクラブは幼い頃からの積み重ねをクラブで出しているに過ぎないというのに。ラ・マシアで育ったプレーメーカーは幼い頃から同じことをしている。しかし、多くのビッグクラブは有名な選手を獲得することだけで終始している。バルサもその中の一つである。しかし、チームの心臓が変わったことは一度もない。それがチャビであり、ブスケツイニエスタだ。クライフが植え付けた「心」は、遠いオランダからやってきた戦術家が鍛え上げ、ロナウジーニョという天才とサッカーを楽しみ、そしてペップという最良の師の下で攻撃を司ってきた。

 そして、代表で世界一に輝いた。35になった彼は全盛期のようにはもう働くことができない。その衰えを確かに自覚していたのだ。1年待って、バルセロナを去るという選択肢は極めて正解だったように思える。彼にとって最良のラストダンスが待っているからだ。

 カンプ・ノウで舞ったマタドールのダンスは、残り3試合。唯一無二の天才が去ることで、バルサのサッカーも変わっていくことだろう。それでも。ぼくらは敬愛をもって彼がカタールへと旅立つことができるように応援したい。そして、その思いは。リオネル・メッシが、ジェラール・ピケが。次の世代へと受け渡していくものになる。そして、まだ見ぬ「チャビ」を、チャビが指導する時代がきっと来ることだろう。

 グラシアス、チャビ! 良い旅を。