殴るぞ

色々と思いっきり話します。

続・悪党シメオネの反抗

 バイエルン破れたり。180分という過酷な戦いを制したのは「戦術の天才」ペップ・グァルディオラではなく、「悪党」シメオネだった。勝利のためにどんな手を使うことも厭わないダーティな男ではあるが、実際にはとてもクリーンで整備されたディフェンスシステムを構築する指揮官であることをまず述べておこう。しかもこれは、2年前にチャンピオンズリーグ決勝で見た時と違い、激しくダーティなものでなくなっていることもしっかりと明記しなければならないほどだ。

 1980年代後半にアリーゴ・サッキ氏が構築したゾーンプレスから早くも30年以上が経過しているが、そこからベースにしたハイプレスとスペースを守るという概念。もちろんそこに至るまでには先人たちの教えがあったわけだが、ディエゴ・マラドーナという強大なプレーヤーを抑えるための戦術は現在に至るまで、世界中に大きくその影響を与えている。

 また、そのゾーンディフェンスでさえJリーグではある種「非常識」になっている。これが松田浩さんの本により明らかになったところで、サッカークラスタの各位は恐らくこのゾーンディフェンスという言葉が一つ、キーポイントになっているような気がしてならない。

 彼が選手たちに多く要求するのは「忠誠心」。激しいプレーを厭わないアトレティコの戦術にはバルサのパスサッカーと同等レベルのチーム戦術が要求される。むやみやたらと前線から守備に行けばいいというものでもなく、それを整理して選手たちに必ずやらせなければならないからだ。そのためには監督のそしてクラブへの忠誠を要求する。現役時代から戦術についても徹底して勉強を進めていたシメオネにとって、その前提が崩れてしまうことを最も危惧していたのかもしれない。

 事実、アトレティコの選手たちに対してシメオネとの信頼関係は相当強固なものに見える。「私の選手たちは死を恐れていない」。そんな言葉を聴いたのは初めてだった。それほど強固な信頼がなければ、バルサやレアルといった資金が強大なチームを相手に戦いを挑めはできないのだと言わんばかりに、彼はそう語った。だからこそ、ピッチの中では選手を鼓舞して、激しいアクションで奮い立たせる。自らも戦っていると言わんばかりに。

 一方で勝利への執着心は時として彼に常識を疑う行動を取らせてきた。2年前のチャンピオンズリーグではバラン選手への抗議、試合進行の妨害。リーガでも退席となりベンチで指揮が取れないと見るや、選手へインカムで試合の指示を行う。一般的に見て、その執念たるや明らかに常軌を逸している。そして、何度もサスペンドを受けてきた。最大半年のベンチ入り禁止になるとすら言われているほどだから、相当だろう。

 そういう熱くなり、一勝に賭けている執念はもはや驚きを通り越して敬意の念しか浮かばない。一方で、記者会見場やピッチを離れてしまうと、誰もが彼のことを謙虚で紳士的な人間であることは十分に分かっているのだ。そのギャップはどこか、あのペップの師匠筋にあたるルイ・ファン・ハールと酷似している。ファン・ハールもまた、ピッチを離れれば紳士的で礼儀正しい人物であるというのは周知の事実である。しかし、サッカーとなるとスイッチが入ったようにエキセントリックな性格を露わにする。バイエルン時代にはハーフタイム中にロッカールームで局部を出したとか、マンチェスター・ユナイテッドを指揮する現在でもその行動がコラ画像の対象となるなど、話題には事欠かさない人物である。目指すスタイルは違えど、戦術を極めてしまう人というのはやはりエキセントリックな部分が多かれ少なかれあるのかもわからない。

 さて、決勝進出となった今回。白いユニフォームのライバルチームと対峙したあの時には、最後の最後で勝利が零れ落ちてしまった。思うとあの時も、ロスタイムの表示が遅くなぜかレアルよりなのかなと感じてしまう部分が多くあった。シメオネはそれに激怒し、審判にも詰め寄る事態にまでなった。延長後半で力尽きたアトレティコはそのまま敗れることとなってしまったわけだが、あの時の執念深さこそディエゴ・パブロ・シメオネゴンサレスという男の意地だったのかもしれない。

 次に相対するのは、白いあのライバルチームか。それともオイルマネーのあのチームか。虎視眈々と勝利を狙い続け、ビッグイヤーにまた近づいたアトレティコ・マドリーシメオネ。悪党の反抗は2年前と変わらぬ情熱と進化し続ける戦術によって支えられている。そして、その反抗は仮に勝利したとしても続いていくことだろう。シメオネという男は、一切の油断と慢心を恐れる男でもある。

 悪党の戦いは、まだ終わっていない。CL決勝。仮に赤白のユニフォームがビッグイヤーを掲げたとしても、それはきっと変わらない。それこそがディエゴ・パブロ・シメオネゴンサレスという男の生き方なのだ。

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2年前に執筆した記事悪党シメオネの反抗