殴るぞ

色々と思いっきり話します。

本山雅志「さらば天才」

 クラブを代表するレジェンドがまた、チームを去る。鹿島アントラーズ本山雅志だ。黄金世代と呼ばれた世代でも、本山はファンタジスタと呼ばれて讃えられていた。それもそうだろう。赤い彗星と呼ばれた東福岡高校で高校3冠を成し遂げ、男子の全カテゴリーの中で唯一決勝戦まで進んだあのワールドユースでは小野伸二と並んでベストイレブンに選ばれているのだから。その世代はまさに突出していた。同じチームになる中田浩二はもちろんのこと、高原直泰稲本潤一、小野に小笠原満男までいる。挙げようと思えばいくらでも挙げられるような年代だった。そして、クラブでは鹿島アントラーズの中心としてドリブルやシュート、そしてパスも全て揃えた選手として名門アントラーズを支え続けてきた。

 代表とはほとんど縁のない選手だった。ジーコジャパン時代には何度も召集されたが、結果を残すことができずに代表から去ることとなった。それでも鹿島での立場はより重要性を増していくばかりとなった。かつて同じ釜の飯を食らってきた仲間がヨーロッパへと飛び出していく中、弱音を吐かずに本山はプレーをし続けた。

 かつて鹿島の黄金時代を築いたオズワルド・オリヴェイラは「フィジカルに難がある」事を除けば戦術的な理解度やゲームを読む力は五本の指に入るほどの力があると評価している。一番相手が使われたくない場所でプレーできる選手であり、サッカーをよく知っている選手として本山はリーグ3連覇に貢献し続けた。

 先天性の水腎症を患い椎間板ヘルニアにも苦しみ、それでも本山はプレーを続けた。50メートル7秒5という足の遅さと体の弱さ、病気との戦い。それすら仕舞ってプレーをした本山はドリブルでも、パスでも、気がつけばチャンスを生み出す。彼がピッチにいるだけで、違いを生み出すことができる選手だった。

 そして、仲間にも恵まれた。小笠原満男は3連覇を達成したオリヴェイラ時代に無くてはならない存在であったし、中田浩二のユーティリティー性は鹿島にとってなくてはならないものだった。曽ヶ端準は今でも鹿島のゴールマウスに立ちはだかっているだけに、ジーコから始まった鹿島アントラーズのメンタリティーを伝え続けていく仲間たちによって本山は輝きを放ち続けたのだろう。

 鹿島アントラーズは独特なメンタリティーを持ったJリーグでも数少ないチームだ。鹿島のサッカーは他のクラブには唯一無二な雰囲気を感じる。独特のメンタリティー、それを受け継いだ黄金世代、そして内田篤人大迫勇也鹿島アントラーズを語るにはその独特な風土から語らなければならない。それくらいの雰囲気があるクラブはJリーグのトップクラブでも数えるほどしかないだろう。

 そうやって培い、育ててきたものは、若手へと受け継がれていく。昌子や植田、赤崎らはその鹿島のDNAを受け継いでいく選手たちなわけだ。今年のナビスコカップ決勝を見ていて心底感じたのは、鹿島アントラーズというメンタリティーであり、ゆるぎない強さなのだ。小笠原満男ガンバ大阪のパトリックの足を削ったプレーには、驚きと喜びすら覚えたものだった。そう、これが鹿島なのだと。

 本山は間違いなくその中心にいた。18年間で積み上げたタイトルは21を数える。出場機会が減っていた近年。しかし熱心に練習するベテランの姿を若手選手たちはどう思って観ていたのだろう。特に昨年はケガもなくシーズンを送れたにもかかわらず、出場試合数は14試合。今年に至っては8試合だった。

「でも、ずっとそうやって競争してきたわけだから」

 と、本山は言い切って日々練習に励んでいた。柴崎岳というゲームをコントロールできるプレーヤーが出てきて、遠藤や土居といった中堅がチームを固めていた。かつてビスマルクジーコを追いかけていた本山は、いつしか追いかけられる側となった。そして、鹿島を去る時が来た。

 そうやって鹿島アントラーズだけでなく、クラブは血を入れ替えていく。思いや強さを残していきながら、老兵は若いプレーヤーに全てを託していく。しかし、本山の心は決して老け込んだわけではないことだけは明確にしておかなければいけないだろう。

「まだピッチに立ち続けたい」と話し、「ここから新たな挑戦が始まります」と語った本山はまだまだプレーヤーとしてやる気満々なのである。次の移籍先はまだわからない。地元の福岡に帰れば、アビスパで活躍する本山をJ1で見ることができるかもしれないのだ。私としては、それはそれで面白いのかなとも思うのだ。小笠原は何食わぬ顔で削りに行くだろうが。

 次のステージがどこになるかは、まだわからない。ひとまず鹿島での彼の挑戦は終わる。しかし、鹿島の時代を支え続けた天才MFはきっと次の場所でも、輝かしいテクニックを活かし続けることだろう。そしていつか、再び鹿島アントラーズに戻ってきてくれることを私は心から祈っている。