殴るぞ

色々と思いっきり話します。

サウル・アルバレス-アミール・カーン【戦前】「ゴロフキンへの挑戦状・その2」

 ひとつ言っておくなら、当ブログのタイトル「黒髪のかねろ」は今回紹介するサウル・アルバレスの愛称、カネロから来ているということを明記しておきたい。赤毛が特徴的だったの彼はスペイン語で「シナモン」を意味するこの愛称を13歳から付け、そしてメキシコのアマチュアボクシング界に鮮烈な印象を与えてきた人物である。兄のリゴベルトは、日本人ボクサーの石田順裕さんと対戦したことでも知られており、石田さんと対戦して暫定・正規王座の統一戦を行い、勝利している。

 さて、そのアルバレスは間違いなくフロイド・メイウェザー・ジュニア引退後におけるスーパースターとしての注目を大いに集めている(もっとも、メイ自身に現役復帰のうわさが出ているのは事実だが)。しかし、そのスーパースターとして証明しなければならないことが多くあることは事実なのである。

 まず、歴戦のスター選手たちと比較しても明らかに対戦経験で劣っていると言わざるを得ないこと。かつてその座を争い、そう呼ばれてきた人物たちは圧倒的な力量を持って対戦相手を叩き潰し、そして同格とも思えるほどのライバルたちをわずかながらの僅差、あるいは圧倒的な差を持って倒してきた。デ・ラ・ホーヤでいえばフリオ・セサール・チャベスにパーネル・ウィテカー、アイク・クォーティという簡単には倒れないであろう者たちをなぎ倒し、そしてメイやパッキャオと言った強者を迎え撃った。メイにもパッキャオやデ・ラ・ホーヤを始めとして、ザブ・ジュダーにホセ・ルイス・カスティージョリッキー・ハットンという一筋縄ではいかない戦士たちを倒してきた。パックマンに関しては言うまでもないだろう。彼はそれこそが彼であることを証明し続けてきたのだから。

 さて、翻ってみてカネロである。50戦近くの対戦経験の中で、彼が強敵といえる相手と相まみえたのはメイとオースティン・トラウト、そしてミゲール・コットくらいではないか。シェーン・モズリーは残念ながらピークを過ぎていた当時の対戦であったし、エリスランディ・ララとの対戦についてはほぼ「負け試合」であったことは否めない。今回のアミール・カーンも本来はスーパーライト級からウェルター級の選手であり、155ポンドのキャッチウェイトで行われる今回の試合では明らかに不利だ。ミドル級のウェイト、160ポンドで行われる試合においても果たしてうまくこなすことができるのかどうかは、何とも言えない部分があることは事実なのである。

 しかし、アミール・カーンという歴戦の強豪と対決するという点においては、とても意義深い試合となるだろう。King Khan(キング・カーン)と呼ばれるアミール・イクバル・カーンはアテネ五輪においてライト級の部で銀メダルを獲得している。その上に、スピードという点では明らかにカネロより利している。アマチュアエリート故のテクニックとハンドスピードの速さから始まるファイトのスピード。パキスタン系イギリス人の彼はかつてフロイド・メイウェザー・ジュニアとの対戦もファンから嘱望されたほどだ。打たれ弱さが数少ない弱点の一つで、ファイタータイプのダニー・ガルシア戦ではその弱点を突かれてKO負けしている。

 そんなキングにとって、証明しなければいけないことは多くある。昨年5月より試合枯れがあったためにアル・ヘイモンとのプロモート契約を解消。ゴールデンボーイ・プロモーションズとの契約を締結した。キャリアにとって重大な1年をほぼ棒に振るような形となっていただけに、何とかして世界トップレベルの戦線に復帰しなければならない。また、ダニー・ガルシアとの再戦も待っている。カネロとの試合において期するものはとても大きなものがあるわけだ。しかし、その試合でさえもおそらくはフレームが大きいカネロを前にしてはまるで無意味なものとなるだろう。カネロもまた、強烈な一打を併せ持っているからだ。

 さて、この試合を前にして次戦うであろうゲンナジー・ゴロフキンはこのようにけん制している。「彼はミドル級のチャンピオンであって、ジュニア・ミドル級のチャンピオンではない。ミドル級は160ポンドだ」と話し、カーンについても「アルバレスとやるには小さすぎる」という批判をした。つまり、キャッチウェイトで試合をするこの試合には何の意味もないと発言しているわけだ。

 厳しい見方が大勢を占めているが、この試合でも大差をつけることができれば。カネロがさらに上へと向かうことができるであろう。一方で再起を誓うカーンも、ガルシアとの対戦指令に向けて弾みを付けていきたいところ。パワーが最大の武器のカネロと、スピードとテクニックを売りとするカーン。噛みあう展開となれば、ファンにとっては喜ばしい試合となることは間違いないだろう。ボクシングというスポーツは、たいてい予定調和で終わりがちだ。しかし、時折「まさか」と目を疑うような展開もある。そしてファンはそれを待ちわびているのだ。

 さて、どう転ぶのか。ラスベガスは決戦の夜を今か今かと、待ちわびている。

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