殴るぞ

色々と思いっきり話します。

フロイド・メイウェザー・ジュニア vs マニー・パッキャオ ~ヴィンテージ~

 ヒリヒリする様な、際どい攻防の末に。3人のジャッジはメイウェザーを支持していた。ぼくの採点は116-112でメイウェザー支持。その濃密な攻防は10ポイントマストシステムでは決して評価されるべきものではない、感動的で絶妙な駆け引きがそこにはあった。

 特にパッキャオはここ数年でもいい調整ができたのか、踏み込みは鋭くアグレッシブに攻め込む姿勢が見られたことは好感が持てる。翻ってメイウェザーはどうだったのか。相変わらずのフロイド・メイウェザー・ジュニアで、変幻自在にかつあっさりと。メイウェザーは攻略をしてしまったのだった。

 序盤から中盤にかけて押して押し込まれのラウンドが続いたのは分析していたからか、それとも本当にパッキャオが押し込んでいたのか。いずれにしても、序盤にパッキャオが4ラウンドの攻勢時にダウンを奪うべきだったことは事実だった。いい踏み込みが多く、攻め込んでいくにはそれ以上に深く入り込まなければ、メイウェザーは倒せない。左ストレートが顔面に入った時、慌ててバックステップをして回避した。そのうまさをたたえるべきなのかもしれないが。6ラウンドの波状攻撃では、もっと強引に攻め込むべきだった。それこそメイウェザーが嫌がってクリンチをするくらいの勢いで。

 本質的にはファイターであったパッキャオが、かつて見せたファン・マヌエル・マルケスへの野性的なまでの踏み込みはもうない。しかし、眠っていた野性を目覚めさせなければ、到底メイウェザーに勝利することはできなかった。そして、眠らせたままメイウェザーは「安全運転」で勝利をもぎ取った。

 とにかく、7ラウンド以降12ラウンドを除いてすべてメイウェザーに着けたのは簡単な話なのだ。「パッキャオはすでに攻略されていた」からに過ぎない。まるで、テレビゲームの攻略本を読みながらゲームを進めているかのように。

 メイウェザーはパッキャオの連打を軽やかに、時には強引に躱して見せたのだから。仮に当たったとしても、自慢のボディワークと「L字ガード」で角度を変える。こうすることで、意図的にクリーンヒットを避ける。仮に当たったとしても問題ない。彼はダメージを受けないためにフィジカルトレーニングできっちりと体を作り上げてきているのだから。

 そして、目立ったのが「右ストレート」。深く踏み込んでくるパッキャオは基本的にガードが甘い。フレディ・ローチの指導を受けた選手はどうしてもガードが甘くなりがちなのだが、そこを面白いように右ストレートで崩して見せた。入ってくれば、レーザービームのような右ストレートが射抜く。踏み込みへのためらいはそこから生まれていたのかもしれない。

 ファン・マヌエル・マルケスのあの右カウンターのような泥臭さはないが、躊躇わせるためには十分すぎる一撃。序盤から多用していたのはそういうことだろう。

 思うに、この試合はその踏み込みのためらいを生み、駆け引きの巧みなメイウェザーが主導権を握るのは必然だった。引き出したのはパッキャオだ。これがあと5年早く見たかったという人もいた。それはもちろんそうだろう。だが、メイウェザーはここまで待つ必要があった。単純にパッキャオが衰えているのを待っていたから? それもあるだろう。だが、彼自身のボクシング技術と観察眼を熟成させるためにこれだけの時間が必要だったのではあるまいか。そして、ぼくたちはその熟成された味を堪能した。これが、フロイド・メイウェザー・ジュニアというボクサーのすべてだ。素晴らしい。

 踏み込みを封じたメイウェザーの妙技と、意地を見せたパッキャオに拍手を送って、観戦レポートとしたい。