殴るぞ

色々と思いっきり話します。

ダイナマイトがとどろくとき(2) ―その雄たけびを聴け―

 3戦目で勝利を盗まれた形となったマルケス。5か月が経過した2012年4月14日に行われた再起戦では、パッキャオとのリマッチをにらみサウスポーとの対戦を要求。周囲以上に、メキシカンはパッキャオとの対決に執念を燃やしていた。

 一方で、パッキャオはすでにマルケスとの対決を嫌っていたのではないかと思われる。むしろ、宿命の相手と決めていたのはフロイド・メイウェザー・ジュニア。この年の6月に収監されるボクシング界の「帝王」との対決を熱望していた。

 しかし、運命は互いを引き寄せあう。そのプリティーボーイが収監されて1週間後。ティモシー・ブラッドリーと対決する。数か月後に出所する帝王との対決に向けて、砂嵐の異名を持つアメリカ人を倒すだろうと多くの人が思っていた。

 思惑は暗転する。「疑惑の判定」と同じくらい、パッキャオに衰えが来ていた。トラブルによる練習不足が祟ったとはいえ、評価を下げたフィリピンの英雄と、評価を上げたテクニシャン。そして両者は再び戦った。4年前の今日のことである。

 マルケスが賭けていたものは大きかった。39歳という年齢は引退していてもおかしくない。彼を支えていたものは、「パッキャオを倒す」というモチベーションだったのだ。

 パッキャオは名誉を挽回しなければならなかった。脱税疑惑、スキャンダル。それによる練習不足。怠けた体はそう戻らない。アスリートとしては下り坂へ突入する時期に来ていた。マルケスを倒すことで、最強であると再度証明しなければならなかった。

 互いの思惑が一致した戦い。それは我々の予想以上に激しい戦いとなったのだ。

 機を伺い、明確に相手を倒すというメッセージがこもった展開。いつ爆発するかわからぬ高揚感。そしてそれは、確信へと変わり形となって現れる。アグレッシブに攻めるパッキャオ、パンチを出しながら好機を待つマルケス

 しかし、マルケスは待っているばかりではない。当代きってのテクニシャンである彼の真骨頂はハードに攻めることだ。機がなければ作ることも厭わないのが、彼の評価をより高めていると言ってもいい。

 3ラウンド1分43秒。試合が動く。パッキャオが攻め込む展開が続いていたが、マルケスはその間にボディを打ち込み、確実に警戒心を下へと移動させていたのだ。そこに不意打ちの右フックを打ち込む。ダウンするパッキャオ。形勢は逆転した。はずだった。

 パッキャオはさらに攻勢を強めてきたのだ。最初からスタミナ切れなど考えていないようなパッキャオのペース配分。パッキャオには焦りもあったのだろう。反射神経の鈍り、前回のように攻め込んでこない不気味さとカウンターの恐怖をはねのけるかのように。

 勝負の神はまだ決めかねていた。5ラウンド1分9秒。手数が増えてきたマルケスに対して、ダウンを奪う。非常にコンパクトで、スピードのある左ストレート。そこからパッキャオは攻め立て、マルケスはどうにかして守る。だが、フィナーレがもうすぐそこに来ていることをその時、この展開で誰が予想していただろうか。

 6ラウンド。先ほどの激しい展開とは打って変わって、静かになる。パッキャオの足はもつれ、マルケスも手を出すことができない。限界であることを両者は感じ取っていた。本来のパッキャオならば、足が縺れることはなかっただろうし、マルケスの手が出ないという状況もあり得なかったはずである。

 そして、本来のマルケスの体重はライト級からスーパライト級がベスト。ウェルターの体重では身体が重たく、前回失速してしまった要因でもあった。一撃を。その強烈な一撃が撃ち込むこと。それは、6ラウンド終了のゴングが鳴る直前に訪れる。

 パッキャオの右ジャブをフェイントに使い、マルケスを仕留めるためのストレートを放つ。その踏み込みにマルケスはカウンターを合わせた。一歩間違えれば、逆の展開もあり得た状況だった。レフェリーのケニー・ベイレス氏が試合終了を宣告したとき、マルケスは雄たけびを上げた。

 その後ドーピング疑惑が上がったものの、ティモシー・ブラッドリーとマイク・アルバラードと対戦した。ブラッドリーには敗れ、アルバラードには勝利した。それを最後に2年以上、マルケスはリングに立っていない。彼ももう43歳だ。もう、帰ってくることはないのだろう。

 マルケスには決着をつけたという事実で十分だったのではないだろうか。これ以上、己を証明する必要がなくなったのだ。ドーピング疑惑が真実だったとして、それがパッキャオというライバルに対して勝ちたいという執念そのものだったのかもしれない。そう考えると、その行為も納得いく。もちろん、咎は受けるべきだとは思うが。

 だが、あのカウンターは。結末は。いかなる罰も受け入れる覚悟を持った彼に、神が与えたファン・マヌエル・マルケス・メンデスへのプレゼントだったのだと思う。

 大げさだろうか。だが、現実は時として漫画のような出来事が起こるものだ。

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