殴るぞ

色々と思いっきり話します。

ルイス・スアレス、本能と理性のストライカー

 あの噛みつき事件からもうすぐで1年が経とうとしている。それも世界一を決める大会でだ。ルイス・スアレスその人である。ウルグアイではディエゴ・フォルランに代わり代表のエースとなり、バルセロナではトリデンテの一角としてネイマールやメッシと共存している。エゴイスティックな点取り屋でありながら、プレーは柔軟そのもの。野性と理性が融合した、リオネル・メッシクリスティアーノ・ロナウドらと比肩するプレーヤーの一人である。

 彼の自伝である「理由」をどうしても読みたくて本屋で買った次第なのだが、何せ彼のすごいところは噛みつきという行為を「反省していない」ことだと思う。自分自身がストライカーとしての本能を否定せず、相手にとって噛みつきは無害なのだと主張するあたり、何ともスアレスらしい。エヴラとの人種差別騒動や、アヤックス時代のことをありのままに語るところが着飾らずに語ることができるのは彼だからこそだ。

 その一方で、スアレスは恩を受けた人のことを忘れない。自分の練習に付き合ってくれたアヤックス時代の指導者のこと、スティーブン・ジェラードとの友情話。ソフィア夫人の馴れ初めに、バルセロナアムステルダム遠距離恋愛の話。夫妻の間に産まれた子のこと。そこには彼の純粋でやさしい一面を垣間見ることができる。

 共通しているのは「サッカーが好き」で、純粋に勝利を目指して来た男のまっすぐな自叙伝のように思える。いつも思うのはちょっと田舎に住んでいる、人が大好きなヤンキーの少年といったところだろうか。

 ちなみに、ぼくはスアレスがすごく好きなのだ。本能のままに赴く彼のプレーはいつだって世間をにぎわしてしまう。自伝の中では「PKを取りたいがためにわざと転ぶことだってある」とあっさりと認めてしまうところが、何とも間抜けであほの子を思わせる。だが、そこには純粋でまっすぐな少年がそのまま大きくなっていったような。そして、彼の周りにはお金が飛び交うようになり、サッカーがビジネスになっていった。ウルグアイの貧しい家で産まれた少年はやがてオランダへ渡り、白と赤のユニフォームからリヴァプールの赤いユニフォームを身にまとった。そして母国のユニフォームを身にまといながら、青とえんじのユニフォームに袖を通した。

 それでも、スアレスは変わらない。いや、変わる必要がない。それが彼の魅力で、残念な行動でさえ愛したくてたまらなくなる。多少あほなことをしても、決して彼は大きく道を外さない。愛妻家で子煩悩。練習態度だっていつもまじめ。同じ南米の選手たちに囲まれながらプレーする彼は、どこか楽しそうでもある。

 彼にはどこか、昔懐かしいどこか飢えた肉食獣のような雰囲気を感じることもある。あえて言うならブラジル代表のロナウドだろうか。もちろんプレースタイルも違うし、ロナウドのようにぶくぶくに太っているわけでもない。だが、ゴール前での野性的な本能はやっぱりロナウドのそれに似ている気がする。クリスティアーノ・ロナウドにも、リオネル・メッシにもない。CR7のようなスマートさはないし、メッシのような神がかり的なプレーとも違う。ルイス・スアレスは新しい、野性と理性が融合された選手なのかもしれない。