殴るぞ

色々と思いっきり話します。

メイウェザーvsパッキャオ Money(3)~Recovery~

 なぜ、Moneyは急にリングを去るようなことをしたのだろう。自分を認めてくれないフラストレーションと、前回で記述した。もう一つあると思われること。多くのアスリートが通ってきた問題が根底にあったのだ。それが「負傷」である。全身のケアを怠ることができないほど、全身を治療する必要があったほどだった。アマチュア時代からの拳の負傷、左拳から始まり、利き手の右手まで負傷。肘、背中。そしてそれは状態はかなり悪化していたとさえ言われる。

 そして、加齢。パンチのダメージは蓄積しやすい。スピード違反と呼ばれた彼の長所は、メイウェザー一族を通して打たれ弱い家柄を隠すために過ぎない。だからこそ、徹底してディフェンスをする必要があった。ザブ・ジュダー戦で、復帰後のシェーン・モズリー戦で。思わずよろけてしまったことがそれを裏付けている。

 だからこそ、意図的にダメージを抜く必要があったのだ。復帰戦2戦をこなしたが、それも年に1度のペース。恋人へのDV容疑でトラブルがあったことを差し引いても、感覚を取り戻すためとダメージを抜くための作業をこなす必要があった。だから、意図的にブランクを開けた。考えすぎだろうか。

 2011年9月17日に彼が最前線に戻るまで、ファンはそのダメージからの回復を待った。この試合である意味でMoneyらしい、何ともあっけない形で戻ってきた。WBC世界ウェルター級王者だったビクター・オルティスに格の違いを見せつけていく。オルティスのパンチは全く当たらず、Moneyのパンチはまるでレーザービームのように鋭く当たる。コーナーに追い詰められても、圧倒的なディフェンスワークで、オルティスのパンチは届かない。そして、4ラウンド。またもやコーナーに追い詰められたオルティスは、あろう事かMoneyをサッカーボールと間違えたようなヘッドバッドをかましてしまう。当然、レフェリーのジョー・コルテスは減点をする。そして、こう声をかけた。”Let’s Go!”

 そして、再度ハグをしようとしたオルティス。応じたMoney。そして、強烈な左フックと右ストレート。真正面から受けたオルティスはダウンして一歩も動けない。苦笑いをしながらカウントアウトを待ったのだった。ラスベガスのファンは驚きと戸惑い、そして怒りに震えた。しかし、当のMoneyは意に介さずこういった。「奴はボクサーとして甘さを見せた。だから終わりにしてやったんだ!」

 インタビュアーのラリー・マーチャントはその振る舞いに怒り、しかし容赦のない「悪役」はもっとも強烈な形で世界戦線に帰った来たのだった。

 その後、3ヶ月の禁錮刑を受けることとなるものの、それを引き伸ばして行われたミゲール・コット戦。復帰後でピンチに陥ったと言える試合はシェーン・モズリー戦とコット戦だけだろう。その試合でさえ、試合のほとんどを支配していたのだから、まったくもってMoneyは手に負えない。鍛え上げられたコットのフィジカルと攻撃は、おそらくビクター・オルティスやロバート・ゲレーロであれば確実に打ち砕いていたことは間違いない。しかし、不幸なことに相手がMoneyだった。更に彼が見せたディフェンス技術とパンチの精巧さ。そしてそれに応えたコットの意地。すべてが噛み合って、おそらく後期のメイウェザーを語る上では欠かせない試合の一つとなった。そして、ラリー・マーチャントとインタビュー上で和解したというオチが付いたことも、何よりMoneyらしかった。復帰してから4年間でそれでもたったの4戦。そして、Moneyは塀の中へと収監されたのだ。

 出所後のMoneyは自らのプロデュースに力を注ぐこととなる。50centと組んでプロモーション会社を立ち上げるが喧嘩別れし、自らの手でメイウェザー・プロモーションズを設立、インターネットを駆使して自らのファン層をより強固なものにした。ジャスティン・ビーバーという若いアメリカのスターとの交流や、投資家と人脈を広げて自らをアピール。広告収入が入らない分だけ「フロイド・メイウェザー・ジュニア」というブランドを更に素晴らしくするための活動に腐心した。

 一方で、ボクシングの方ではアル・ヘイモンなど有力で有能なマネージャーらと契約を交わしていったことで、彼がよりボクシングに集中できる環境を整えていった。

 父のシニアと和解したのもこの頃と言われる。長年コンビを組んできた叔父のロジャーが病気で倒れたことも相まって、再びメイウェザーファミリーの一員としてよりを戻したのだとか。そして、最後には長年ペイ・パー・ビュー放送を流してきたHBOと別れ、SHOW TIMEと契約を結ぶ。6試合で200億円という契約を締結したMoney。

 ロバート・ゲレーロとの試合は十分に戦える環境を整えた上での「復帰戦」だったのかもしれない。以前とはまるで見違えるような流れる動き、そして4階級王者相手に手を抜いた素振りすら見せてあっさり判定勝ちを収めてしまった。だが、これは予兆に過ぎなかった。

 MoneyがTBE(The Best of Ever)になる予兆に。