殴るぞ

色々と思いっきり話します。

エイドリアン・ブローナー「BUMP OF PROBLEM」

 ボクシング界だけでなく、どの業界にも問題児と呼ばれる人物はいる。ホリエモンは紛れもなくそれであるし、良くも悪くも彼の発言はメディアを賑わせる。スポーツ界でも、本田圭佑中田英寿の言葉は多くのウェイトを占めるだろう。サミル・ナスリはその発言が非難されたこともあったし、マリオ・バロテッリは度重なるお騒がせな行動に対して多くのサッカーファンが呆れている状態だ。

 エイドリアン・ブローナーは紛れもない問題児であると言える。しかし、その実績は大変素晴らしい。WBO世界スーパーフェザー級王者を獲得したのを皮切りに、ウェルター級までの4階級を制覇。スピードとパワーに長けたフロイド・メイウェザー・ジュニアの再来とうわさされた素材だった。

 4階級制覇をした日本人選手が現時点で皆無であることからも、その偉業の素晴らしさを分かっていただけるとは思うのだが、実績ベースで見れば確かに素晴らしい。しかし、素晴らしいが聞こえがいいのはそれだけ。乱闘に体重超過、様々な奇行と「兄貴分」であるメイウェザーにも噛みつき、人格を考えてみると我々がイメージする「世界王者」のそれでは無いということだけは確かだ。

 1989年生まれの彼に、問題行動の話が出るのは今回が初めてではない。アメリカの警察逮捕歴には未成年者の記録はないためにはっきりとした数は不明だが、初めての逮捕が14歳の時で、以来様々なトラブルを起こしていることはあまりにも有名だ。

 犯罪以外でもトイレにドル紙幣を流したり、恋人との性行為の動画をインターネット上にアップロードしたり、ラスベガスの用心棒と大喧嘩になったり(当然逮捕された)、とにかくやりたい放題問題を起こすことから付けられた愛称は「Problem」。

 最後に行われた試合では体重超過もさることながら、自らが起こした強盗事件について収監されてしまった。もはや問題児を通り越し、ただのチンピラである。つい最近も日本人ボクサーの京口竜人が暴行事件で有罪となったが、はっきりと言えば京口がかわいく見えてしまうほどだ(当然、彼の行った行為も立派な犯罪行為だ。ボクサーの拳は凶器と一緒である)。

 はっきり言おう。彼はもう手に負えない。それでもProblemはボクサーとしても人気が未だにあるのだから驚きだ。多くのヒーローが生まれる中で、ヒールとしての立場が何よりも似合うためだ。

 アメリカのスポーツにおける最大のヒールと言えば、言うまでもなくフロイド・メイウェザー・ジュニアである。実質的に弟分でもあった彼はその才能とメイウェザーをまねたスタイルからその道を大きく受け継いでいくものと思われていた。結局はメイウェザーにもケンカを売る「小物」になってしまったわけだが。

 小物になってしまったのには理由もある。比較されがちなメイウェザーとブローナーでは一人のアスリートとしても大きな差があることを明記しなければならない。

 そう。素行不良については確かによく似ている。メイウェザーもまた、罪を犯して収監された人物であるためだ。しかし意識という点ではどうだろう。メイウェザーが体重超過を犯したのはファン・マヌエル・マルケス戦の1試合だけだったと記憶している。類まれなる才能とハードなトレーニングに裏打ちされたボクシング、自己管理能力の高さ。ブローナーはマイダナ戦を始めとして不利なときに自分の流れに取り返す術を一切知らない。

 そして、ブローナーは高い身体能力を武器としたオフェンスが大きな特徴であって、彼にメイウェザーのような高速連打をよける能力も、ブロッキングテクニックも無いことを明記しなければならない。元々のスタイルが違いすぎるのに、メイウェザーの後継者と言うのはとてもではないが難しい。

 さて、彼が世界戦線のトップに躍り出たのは4,5年前のことになる。その間に世界のボクシングは大きく動いた。クリチコ兄弟がヘビー級戦線で敗れ、絶対王者だったセルヒオ・マルチネスが崩れ落ちた。そして、テオンデイ・ワイルダーやゲンナジー・ゴロフキンにサウル・カネロ・アルバレスといった選手たちがスターとして現れた。アンドレ・ウォードの玄人受けするボクシングも捨てがたい。彼らには華がある。しかし、対極にいる選手と言うのは、実に少ないとは思わないだろうか。

 ブローナーにもポテンシャルはある。それも相当高いポテンシャルが。恐らくその才能は歴代の中でもかなり高いレベルにあるだろう。

 しかし、才能というのは不思議なものでどんどん目減りしていく。あの兄貴分がどれだけ問題行動を起こしても勝利できたのはなぜか。それは、ハードに練習をし続けたからだ。そして、その問題行動によって多くのアスリートたちの才能が潰れたことも明記しなければならないだろう。

 そんな問題児、エイドリアン・ブローナー。Problem、和訳すると「厄介者」の彼の反撃はなるのだろうか。それとも、ただのチンピラに成り下がってしまうのか。しかし、悪役と彼のことを称するには、いささか脆いような気がしてならない。

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