殴るぞ

色々と思いっきり話します。

メイウェザーvsパッキャオ Pacman(4)~キッズ・リターン~

 全てを賭けて臨んだはずのマルケス戦。その代償は余りにも大きかった。ボクシングにおいて、それはよくある話だ。たった一度の負けが、人生を大きく狂わせる。オスカー・デ・ラ・ホーヤと戦ったアイク・クォーティ然り、オルランド・サリドに敗れたファンマことファン・マヌエル・ロペス然り。クォーティはあの試合を最後に世界王者に輝くことは二度となく、ファンマも脆さを見抜かれてからはめっきりと強豪に勝てなくなってしまったまま引退した。

 ブランドン・リオス、ティモシー・ブラッドリーと立て続けに勝利したPacmanは果たして、そこからぬけ出すことができるのかどうか。今回はそこに主眼を置きたい。

 まず、気になるのは2009年の11月14日にミゲール・コットからKOを奪った試合以降、KO勝利がない。ダウンを奪っても、かつてのような豪快さがどこか鳴りを潜めている。いつも圧倒的に勝ちきっていた彼がである。

 それは、身体的な衰えを隠せない証でもあると思う。逆境を跳ね除けてきたハイリスクな踏み込みは衰え、彼の野性的な魅力はどんどんと失せていった。追い打ちをかけたのは自己管理のなっていなかった一時期。かつて、フライ級でウェイトオーバーをしていた時と今では年齢も体力も取り返すことができる時間もない。そして、あの恐怖と神がかった何かもマルケス戦を最後に消え去ってしまったのかもしれない。

 何より、ダメージだ。タフなことでも知られるPacmanが前のめりに倒れたあの試合。一部報道では取材中も手の震えが止まらなかったという。明らかにパーキンソン病、あるいはパンチドランカー特有の症状が出ている。次の試合でダウンしたらゲームオーバー。その恐怖もあの驚異的な踏み込みを躊躇わせているのかもしれない。

 一度、味わった恐怖をぬぐい去ることはできない。TBEだってパワーはなくとも、相手の隙をつく精確なパンチを併せ持っている。もし、そのレーザービームのような右ストレートをくらったら。その恐怖はあって普通だと思う。しかし、前へ出ることこそPacmanのスタイルであり、貫き通してきたもの。それを曲げることは、却って恐怖を倍増させることになるのではないか。

 間違いなく、駆け引きと巧さはTBEが圧倒的にある。しかし、そもそもその土俵で彼は戦っていたのであろうか? もし、マニー・パッキャオとして戦うのであれば、前へ出ること。それも大きく鋭く。それこそが彼のスタイルだ。ライバルであるマルケスはそれをあの右カウンターで伝えたような気がしてならない。

 意外なことに、今回の予想ではPacmanを勝利に推す声が多い(Yahooスポーツを確認していたのだが、これは意外だった)。だが、ぼくは勝利の望みは極めて薄いと思う。恐らく、これは予想ではなく「願望」なのだろうと考えた。なぜか? あのPacmanが戻ってくれば。恐らくTBEに勝利できる。何より退屈でつまらないボクシングをするTBEよりも、Pacmanのようなエキサイティングなボクシングをする選手が勝つべき。そういう思惑もあるのかもしれない。回転力とパワーはシェーン・モズリーを凌ぐだろう。スタミナはザブ・ジュダーよりも断然ある。やるからには序盤からプレスをかけてボディコンタクトを多くしていきたい。1ラウンド、あるいは2ラウンドでダウンも奪うこと。これは絶対だ。それができないのであれば、勝率は20%から5%くらいまで下がる。仮にも相手はリングの空間を巧みに扱う。それくらいできなくて、どうして勝利を手にできるだろうか。

 もし、それができるのであれば。5月2日(日本時間3日)に彼がアップセットをする可能性もないわけではないと思う。6階級制覇と数々のアップセットを成し遂げてきた彼に、逆境はよく似合う。

 最後に、彼のもう一つの愛称を持ってこのコラムを締めたいと思う。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

His Ring Name is “Pacman”and “The Destroyer”.