殴るぞ

色々と思いっきり話します。

トライアウトという復活の場

 華やかな日米野球が幕を閉じて、大谷翔平藤浪晋太郎のような若い選手や菊池涼介山田哲人のような野手も躍動した日本代表。だが、プロ野球は決してそういう選手たちばかりではない。プロで活躍できる選手で、尚且つ日本代表にまで漕ぎ着ける選手はほんのひと握りだ。戦力外通告を受けた選手たちにはトライアウトを受けて、最後の希望をつかむために戦う。だが、それでも次につなぐことができる可能性は限りなく低い。

 だが、今年は例年と比較しても第2回を前にして過去最多の13名が契約者を出した。FA宣言する選手が年々小粒になってきており、大物はメジャーへと移籍することが多くなってきた昨今で、トライアウトももしかしたら新たな位置づけへと変化してきているように思う。落合博満が「宝の山」と称したように、何かしらの能力を見出して戦力として補完できる可能性に賭けるチャンスなのだ。

 失敗しても、何よりも支払う給料は格安で済むからリスクも少ない。活躍したら、その分に見合った報酬を出してあげればいいだけだから、極めてビジネスライクでもある。活躍できなければ再度放出するまでだ。日本野球においても、解雇された選手への再チャンスを与えるようになってきているように思う。本当の意味での「フリーエージェント」がいよいよ日本野球にも浸透してきたのではないだろうか。

 雇われ先との契約を破棄して、あるいはされて、選手たちが自由に他クラブと交渉できる権利を得ることができる。あるいはトライアウトを通して球団にアピールをする。その分だけ当然リスクを選手たちも被ることになるのだが。これは選手たちが個人事業主として認められ始めていることの証左でもある。将来を嘱望された選手から、かつて実績を残した選手まで。長いこと二軍暮らしで伸び悩んだ選手も多い。今年のトライアウトは本当にバリエーションが豊富だ。

 だが、厳しいことを言えば本人たちは「まだやれる」と思っていても、客観的な目で「無理」と判断されたことに選手たちはどれだけ自覚をしているだろうか。それを謙虚に受け止められる覚悟があるだろうか。そして、一度失敗した者に対して第三者の目は厳しい。また同じようなミスをすれば、戦力外の憂き目に遭うことだろう。戦力外から獲得されて活躍した選手は本当に少ない。それがどういうことなのか。どれだけ自覚を持っているだろうか。来年も同じようにこれほどの人数が契約される保証はないし、明日行われる第2回のトライアウトでどれだけの人数が契約できるのかというのも未知数だ。それほどの覚悟があるだろうか。それでも現役にしがみつきたいだろうか。むしろ、中田亮二のような道もあるのではないだろうか。

 本当の意味でのフリーエージェントとは、これほどまでに過酷で一部のものしか厚遇を受けることのない極めて残酷な制度であるとも言えるのだ。

 金子千尋がこのオフの主役となりつつある中で、「フリーエージェント」となった選手たちが次の道へ進むために必死に戦っている。そして、またあの球場のカクテル光線を浴びるためにトライアウトへ挑む。どれだけ長く野球を続けることができるのかはわからない。だが、これだけは言える。第三者の目は厳しい。だが、ファンはそれだけの苦労をして復活し、活躍してくれた選手には皆優しいのだ。人は一度失敗した人間が復活するときに誰でも暖かい拍手を送りたくなるものだからだ。