殴るぞ

色々と思いっきり話します。

その1球が、菅野の成功を裏付けた

 今でも覚えている1球がある。菅野智之の大学時代だ。ロイ・ハラデイに憧れる前の菅野は、速球とスライダーでねじ伏せるタイプのピッチャーだった。大学の先輩だった久保裕也も大学時代はそうであった。だが、久保よりも球の力は段違い。150キロを越えるストレートとえぐいほどに変化するスライダー。伊藤隼太擁する慶應義塾大学がきりきり舞いにされたあの試合で、ことごとく相手から空振りを奪っていく姿に思わずぼくも唸ってしまったのを、昨日のことのように覚えている。そして、驚いたのが制球力。パワーを付けることはプロに入ってからも行うことができる。しかし、プロに入って制球力が改善された投手は聞いたことがない。あっても多少マシになった程度。コントロールこそ才能ということを唱えている人もいるそうだが、本当にその通りだと思う。菅野は21歳にしてすでにそれを持って、尚且つ武器としていたのだ。事実、ほとんどピンチらしいピンチは数える程しかなかった。

 唯一あったピンチ。それはバッテリーミスから生まれた。6回裏、2死1塁から捕手の伏見寅威が変化球を捕り損ねてしまう。ランナーはスタートを切っており、その間に3塁まで達した。2アウト、2点差。並行カウントとなって、ここで一打が出てしまうようなことがあると流れを持って行かれかねない場面。表情からは見ることができなかったが、三振を狙いに行った球を逸らされてしまったことと、ランナーがスタートを切っていたこと。自らで招いたような形となったピンチに、ぼくは菅野智之という投手の本能と本性を思い知ることとなったのだ。大きく曲がるスライダーでも、縦に落ちるスライダーでもなく、怒りのこもったストレートを投じた。アウトローギリギリに決まったストレートは155を計測した。球速としてはそれがその試合の最速だったと思う。試合の主導権を渡さないまま、東海大学は見事に菅野が17三振を奪って完封した。

 

 ここ一番でその日最高のテンションと魂がこもった球を投じることができる。それは彼がまさしく投手であることの何よりの証だ。試合には絶対に点を取られてはいけない場面がある。それを抑えるのはエースの仕事。菅野は持ち前の闘争本能と、かつ試合を読む力で冷静。メンタルの弱さで持っているポテンシャルを出せずに引退していった選手もいる中で、彼が潰れなかったのは持って生まれた「原辰徳の甥っ子」という凄まじい境遇であったからなのかもしれない。

 

 「納得していない」。彼の言葉からそのようなコメントが見られた。故障で離脱することが2度あった今年のシーズン、そこにどうしても釈然としない思いがあったのだろう。事実、今年の出来を考えれば12勝5敗という成績はやや物足りない。かつてのダルビッシュ田中将大と同じレベルの成績を残して欲しいというのが本音だ。たかだか大卒2年目と思うことなかれ。投手としてやれる全盛期を考えれば、もっと求めてもおかしくない。怒りにも似たあのストレートは、彼のそのポテンシャルとメンタルを証明しているのだから。