殴るぞ

色々と思いっきり話します。

伊藤雅雪-クリストファー・ディアス「消耗戦」

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「アップセット」と言いたいところだが、完全な作戦勝ちだろう。

WBO世界スーパーフェザー級新王者、伊藤雅雪は持ち前のセンスとディアスに見せた徹底した戦略で見事に相手を封じ込めて見せた。
5年前、後楽園ホールで大きな声で野次を浴びせた選手と同一人物だとは夢にも思わなかった。だが、そのファイトセンスは本当に素晴らしかったと思う。
決して多くのチャンスがあるとは言えないスーパーフェザー級という階級の中で、チャンスを得るためには外へと出るしかない。そこまで分かっていたかは分からないが、アメリカでのトレーニングキャンプを行ったことは大正解だった。
緊張しているという言葉も事実だろうが、それ以上にリング上でいつも通りの伊藤を見せることが出来たのだから。

◆伊藤雅雪とは何者か?

まずその前に、伊藤というボクサーをきちんと紹介しなければならないだろう。
多くの世界王者が通る道であるアマチュアボクシングの経験は一切なく、むしろボクシングそのものを始めたのは伴流ボクシングジムに入会してから。大学生をやりながらボクサーとしての活動をしていたが、22歳でWBCのユースタイトルを獲得しているし、日本タイトルではカシアス内藤の息子・律樹に敗戦こそしているものの、WBOアジア・パンパシフィックタイトルやOPBFスーパーフェザー級の王者にも輝いた実力者だ。
スタイルとしては右のアウトボクサーだが、反射神経と目が良く、アマチュア経験が無いと言われると驚くほどテクニカルなボクサーである。5年前に一度だけ試合を現地で見たことがあるが、その才能を持て余している印象が強く、試合中に格下の相手にメイウェザーの真似をしていたのが印象に残っている。
だが、それからは着々と実力を身に着けていたようで、世界タイトルの挑戦という話を聴いた際には感慨深くなった物だった。

◆「緊張して」作戦通りのボクシングを貫いた伊藤

さて、試合前の伊藤は大変緊張をしていたそうだが、いざ試合となると試合の主導権を握っていたのは伊藤だった。ディアスには12ラウンドでの戦いをこれまでに経験して来なかったということを注意書きとして書かねばならないだろうが。
多彩なパンチはもちろんだが、常に相手が仕掛けてくる前に伊藤から仕掛けていくという姿勢を12ラウンド取り続けていた。
試合を通して感じたのは伊藤がディアスが気持ち良く打てる距離にさせなかった点。中途半端にアウトボクシングをせずに、時にはくっついて相手の攻撃を逃れるという姿勢を終始徹底していた。23戦全勝15KOという数字から見ても、KO負けだけはくれぐれも避けたいところ。ラッキーパンチでも下手に貰えば大ダメージになるという点と、プエルトリコ出身の彼にとってフロリダのキシミーはホームタウンのようなもの。流れに乗せると厄介だ。
だからといって、アウトボクシングを見せたところで敵地でポイントが得られるとは限らない。ましてや対戦相手は赤コーナーという事を考えればポイントがある程度流れても決して不思議ではない。だからこそ、伊藤が取った作戦はアグレッシブにインファイトすることだった。相手よりも先回りして自らが動くことで、ディアスの距離にさせない。終始伊藤がディアスに圧力をかけ続けた作戦は最大8点差という大差をつけることに成功した。

◆ポイントとなったボディとアッパー

12ラウンド通して伊藤が明確にインファイトのプランを遂行できたのは、ボディとアッパーの精度が非常に良かったことだろう。圧力をかけながら、インファイトでのボディはディアスのスタミナを大きく削ることに成功したし、むしろ体力の消耗が激しいはずの伊藤は試合終盤になっても疲れが見えなかった。
特にアッパーの精度は素晴らしく、試合終盤にディアスの左目が腫れていたが、これは伊藤の右アッパーが何度もディアスに当たっていたからではないか。視界が遮られるとボクサーにとってはパンチの回避が難しくなる。しつこく接近戦を繰り返したこと、そして有効なパンチを出し続けたこと。裏を返すとそれはディアスの攻撃を封じるために編み出した最大の「防御策」だったのだろう。
いずれにしても、その防御策が奏功してディアスの攻撃を封じ込めることに成功した。それもプラン通りなのだろう。繰り返すが、こはアップセットでも「敵地での奇跡の勝利」でもなく、伊藤がプラン通りに試合を運んだに過ぎないのだ。完全に伊藤陣営の作戦勝ちだ。
その作戦を遂行するにあたっては相当なトレーニングを積んだ伊藤、強打のディアス対策を編み出してきた伊藤陣営の努力が勝利を引き寄せたと言って良い。そういう点では「奇跡」を引き寄せたと言えるのかもしれない。

◆5年前の野次を撤回したい。

さて、5年前。彼に大声で野次っていた観客がいた。私である。
勿体ないとさえ感じていた彼の才能、なぜよそ行きのボクシングをするのかが理解できなかった(ちなみにだがFacebookで本人には謝罪した)。
そして5年後、彼は伊藤雅雪のボクシングを見せてくれた。それは想像以上にクレバーでテクニカルだった。そのボクシングを待っていた。だからこそ、最大限の努力を惜しまなかった伊藤選手に賛辞の言葉を送りたい。

……あと、5年前の野次を撤回したいのだが、どうしよう。でもなあ、やっぱりちょっとだけあのディフェンスの感じはメイウェザーを思い出したしなあ。

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