殴るぞ

色々と思いっきり話します。

奇人は誰よりも突き抜ける

 サッカー史に残る当代きっての戦術家は、我々が想像している以上にエキセントリックで、クレイジーだ。ルイ・ファン・ハールその人である。AZから始まった指揮官人生は、1991年にアヤックスに就任してから才能が開花し始める。1994-95シーズンはエールディヴィジでは無敗、UEFAチャンピオンズリーグでも土を付けることができたチームはなく、その強さと戦術から優れた指揮官であることを自ら示していった。

 満を持して、クライフの後釜に就任したのは1997年。ここでもリバウド、クライフェルトフィーゴの「トリデンテ」が躍動して多くのタイトルを獲得することとなる。しかし、決して最後の別れは感動的なものではなかった。オランダ人を積極的に獲得、起用して、若手を重用する。一方でベテラン選手との仲は極めて悪く、クレからも反発が大きかったことは事実であった。何より、ヨーロッパの舞台で勝利できない彼にサポーターが激怒した結果だった。成績が少しでも下がれば解任。これは、後にバイエルン・ミュンヘンでも同じような形で解任されている。フランク・リベリーに至ってはその人間性すら否定してしまうような暴言も吐かれている。

 彼の存在は「爆弾」に近い。きちんと仕事はする。指揮官としての熱心な指導も頷ける。しかしながら、人はあまりに熱くなってしまうと周囲が見えなくなる。松岡修造を思い出して欲しい。彼がおふざけであのような発言をしていると思ったことはあるだろうか?  もし、ウケ狙いでおふざけだったならば。ここまで彼のパーソナリティーがクローズアップされることもなかったはずだ。

 ファン・ハールもそういう人種なのだ。彼は至って真面目。プライベートでの彼は礼儀正しく、優しい男性だという。バルサ時代に対立していたリケルメでさえ、ピッチ外での人間性を絶賛するほどだ。だが、時として人が想像し得ないようなことでさえやってしまう。奇行、突然の激怒。記者会見場ではマイクに向かって大声で話し出す。その姿はまるで「変人」というよりも「爆弾」そのものだ。

「組織こそ全て」。アヤックスの戦術が常に根底にあるオランダ人指揮官は、ゆえに妥協を排する。自らの理想とするサッカーで、チームに勝利をもたらそうと努力する。それは決してぶれない姿勢でもあるのだ。

 ネガティブな姿勢を示すオランダのメディアにはこのように激怒したことでも知られる。

「君の解釈はいつだってネガティブだ! ポジティブだった例がない!」

 強烈なパーソナリティーと幾度となくあった「不遇」とも言える環境を跳ね除けてきた彼らしい語録でもある。そして、ぶれない「爆弾」は例え別れが感動的なものでなくても、残していく「遺産」はその後に大きな成功をもたらす存在になっている。

 アヤックスの教え子であるフランク・デ・ブールは、古巣で監督を務めてエールディヴィジで優勝を成し遂げた。また、かつて活躍したバルセロナから金星を奪うなど、確かな手腕を発揮している。バイエルンはどうだろうか。彼が去ってから、ハインケスの下で3冠を獲得したことは記憶に新しい。バルセロナも同様だ。元々あった「オランダメソッド」を再び目覚めさせ、組織的で強いサッカーにしてみせたのはファン・ハールという強大な存在ゆえだろう。

 バルセロナの監督在任中のことだ。後に類まれなる指揮官となる者たちと彼は同じ釜の飯を食うこととなる。そして、二人は口を揃えて彼に敬意を表する発言をしているのだ。「人を残すは上なり」という言葉があるが、もしそうであるならば彼はもっとも「上」の存在と言える。

 一人は『スペシャル・ワン』、ジョゼ・モウリーニョ。もう一人は『天才』、ジョセップ・グァルディオラ