ロマチェンコとリゴンドウ。ミスマッチに見えて楽しみな一戦。
世界最高峰の技術戦が見られるかもしれない。
ギレルモ・リゴンドウとワシル・ロマチェンコの対戦交渉が今、行われているのだという。ロマチェンコをプロモートするトップランクがリゴンドウとの対戦交渉を行っているということに、大変な驚きがあった。かつて、リゴンドウはボブ・アラムのトップランクに所属はしていたが、アラムの敬意のなさに耐えかねて契約満了と共に離脱している。
そして、それ以上にこの戦いが決まるということのワクワク感があるのだ。もちろんそれは、オリンピック金メダルリストであるということ。そして、そのスキルを越えるボクサーは(スキルといっても一概には言えないということを前提として申し上げるが)、アンドレ・ウォードしか存在し得ないだろう。
恐らくゴロフキン-カネロをボクシングのスターを決める一戦だとしたら、ロマチェンコ-リゴンドウは最高峰の「技術者」を決める一戦になるであろうということだ。常々申し上げているが、リゴンドウのボクシングはとても美しい。そして、ロマチェンコのボクシングは他を寄せ付けない。スキルとパワー。どれも圧倒的だ。そんな対戦が実現したら。とても魅力的だと思う。
■個人的予想は「ロマチェンコの圧勝」。その3つの理由
恐らくだが……。実現しさえすればこの試合はロマチェンコが勝利することと思う。理由はリゴンドウには致命的な弱点があるからなのだ。
まず、リゴンドウはとても打たれ弱い。天笠尚選手との世界戦を覚えていらっしゃる方もいることだろう。序盤に2度のダウンを喫したリゴンドウはキャリアの中でもダウンする経験が比較的多いボクサーである。ノニト・ドナイレ戦でも10ラウンドにダウンを喫しているのは記憶に新しいし、リカルド・コルドバに挑戦した暫定王者決定戦でもダウンを喫していた。スーパーバンタム級ではそれでも圧倒的なスキルとスピードで勝利してきたが、2階級上げる事によってそのダメージを回復出来るだけの余裕があるかは疑問だ。
次に、9月30日で37歳となる年齢だ。一般的にプロボクシングは長く続けられる競技ではない。山中慎介の試合を見ていればわかるとは思うのだが、キャリアを通して戦う中でやはり反射神経や動体視力は落ちていくものである。ウィラポンが絶対王者から陥落したのも36歳だったし、西岡利晃もドナイレの動きに全く対応できないまま敗れた。そのドナイレだって、衰えるのだから。
そして経験の無さだ。何よりも、リゴンドウはキャリアを通してスーパーバンタム級以上のウエイトで戦った経験が1試合しかない。それも2009年の話である。もちろんスーパーフェザー級での試合経験は皆無であり、ロマチェンコの圧力に対してリゴンドウが屈してしまうという光景も目に浮かぶ。
以上のように、リゴンドウにとって不利な点が多くあることは言うまでもない。ミスマッチにも思える程だ。しかし、100%ロマチェンコが勝てるのかと言われるとそうも言い切れない。
■リゴンドウはプロボクシングの達人である。
リゴンドウの表情はいつも変わらない。一度亡命に失敗し、人生に絶望して塞ぎ込んでいた経験からなのか、それとも家族と離れ離れになったことがトラウマとして残っているからなのか。その無表情ながらもボクシングを全て知り尽くしたような戦いぶりは、まさに武道の達人を見ているかのようである。その目に見えているのは「勝利すること」のみ。いつでも冷静に表情を変えることなく、ボクシングに徹しているのだ。
そうやってノニト・ドナイレに勝利した。ボブ・アラムの冗談にしてはまるで面白くないジョークと、ドナイレの言い訳じみたコメントさえも、リゴンドウの美しさの前ではまるで役に立たない。表情を変えることなく、ガードを上げて鋭いジャブとストレートだけで勝ち上がってきた。「究極の理」を持ったサイボーグのような男である。
ふと思うことがある。勝利することだけを至上命題に掲げるのは良いとしよう。ただ、一体リゴンドウはどこを見てボクシングをしているのだろうか。恐らくは37ともなるとそこまでキャリアを積み重ねることができるわけでもないし、試合への評価から言ってもとてもではないが本場アメリカで評価をもらえるとは到底思えない。目先の勝利だけにしては、このロマチェンコ戦で証明できることは何なのだろうか。
恐らくだが。ただの「噛ませ犬」で終わりたくないという最後の意地なのかもしれない。キューバの英雄は勝利してもいつもどこか、寂しげだ。自分と同じだけの次元に立ったボクサーと初めて巡り会えたのかもしれない。サイボーグとバトルマシーン。恐ろしくスリリングな先に何が見えるのだろうか。
■オリンピックチャンピオン同士が見せる最高峰の技術戦。とくとご覧あれ。
BoxRecを見てみると、その試合は12月9日に行われることが決まっている。
ロマチェンコがリゴンドウに勝利すれば、その先の未来は途轍もなく明るいものとなりそうだ。パウンド・フォー・パウンドの頂点を極めるのは、彼になるかもしれない。一方で、リゴンドウが勝利することは、ボクシングという競技そのものの美しさを証明することになるかもしれない。
そんな二人の金メダリストの中でもトップ・オブ・トップの技術を持ち合わせている。リゴンドウのオリンピック時代を見ても、時空を超越しているかのような回転力と正確さには舌を巻く。ロマチェンコはアマチュア時代から変わらないその圧力とやはりパンチの正確さは驚くばかりだ。
そんな二人の技術戦を見届けたいと私は思う。相手を倒す「倒し屋」か、それとも究極のボクシングを追い求める「サイボーグ」か。ボクシングの醍醐味と美しさを味わえるこの一戦。恐らく、多くのボクシングを見るよりも語ることができる価値を見いだせると思う。
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