殴るぞ

色々と思いっきり話します。

大迫傑が、ボストンマラソンを走った理由を推察する。

 さすがは、スーパースターなだけはある。きっと彼は本当に日本陸上界へとメダルをもたらしてくれるのではないか、という確信さえ抱かせてくれた。

 名前を大迫傑、中学時代からまるで風のように走っていたというその男は、まさしくエリート中のエリート。高校時代には全国制覇を経験し、大学でも3大駅伝全制覇という快挙を成し遂げた。実業団入社後も新人選手としていきなり区間賞を獲得するなど、文字通り誰がどう見ても実力が一つ抜きんでているアスリートである。その直後に実業団を退社し、拠点をアメリカに移したが、それだけ大迫のポテンシャルがすぐれている証。誰がどのように育てたとしても、自らの考えと行動で環境を選び取って成長していくことのできるランナーと言える。

 そして、経歴に恥じないだけの実力もある。3000メートル走と5000メートル走の日本記録を更新し、日本陸上界を背負って立つスピードランナーへと成長を遂げている。

 遠藤日向君が、足が地面と接地する際に生まれる反発力で走るタイプならば、大迫は足の回転力で走るタイプ。明らかにトラックランナーである遠藤くんと比較しても、走りながらリズムを作っていく大迫。そのフォームは、春から社会人となった服部弾馬からは「お手本にしたい」と言われているほどだ。

 そんな彼が今回、ボストンマラソンで大会3位に入賞したというニュースが入ってきた。ボストンというワールドマラソンメジャーズの一大会として位置づけられている国際大会を初マラソンに選んだというのもすごい。しかし、さらにすごいのはきっちり走り切った上で2時間10分台のタイムを出したこと。

 もしかしたら、それさえも大迫にとっては普通のことだったのかもしれない。今回の結果を出したとしても、世界選手権には選出されない。これは事実である。しかし、物事を計画的に進めてきた大迫が、このタイミングでわざわざマラソンを始めることには何かしらの意味があると推察した。

 大迫は、来年行われるアジア大会か再来年に行われる世界陸上に照準を絞っているのではないだろうか。なぜなら、ボストンマラソンはペースメーカーのいない、さながら世界選手権やオリンピックと同じ条件で行われる大会だからだ。つまり、自らのペースを守って走らなければ自滅を招いてしまう。今回は無理でも、最終的に世界と戦い勝ちを収めるために必要なことを十分に心得ている証拠だ。

 とすると、懸案は気候である。ジャカルタの8月はたいへん蒸し暑いし、世界陸上も2019年9月にドーハで行われる。恐らくコンディション管理は、何度も経験しているだけに問題ないだろう。

 この結果は、多くの日本人陸上ランナーにとって好機と捉えてほしい結果である。そして、議論が行われているマラソン選考方法についても一石を投じることになるのではないだろうか。

 特に今回のびわ湖毎日マラソンではペースメーカーがペースを作っても、日本人選手が村澤明伸以外、全く着いて行かなかった。つまり、最初からタイムを諦めていた状況だったのではないか。東京マラソンでも2時間3分台という、日本人ランナーにとっては異次元の記録が出たことは驚きだった。しかし、日本人トップが2時間8分ではいささか寂しい。

 何もキプサングみたいに走れとまでは、言わないしそんなことは言えない。しかし、あえてタイム度外視でなおかつペースメーカーなしの選考会が一つあっても良いはずだ。実際に今井正人は同じくペースメーカーの付かないニューヨークシティーマラソンで上位入賞を経験している。その後、東京マラソンで2時間7分台を出した。

 マラソンにおいてスピードは確かに大事。だが、世界選手権などではペースメーカーがつかないことを考えた時に途中まで引っ張ってもらうという状況を打破しなければならなくなるのではないか。実際、考えてほしい。現役選手で世界選手権とオリンピックに入賞経験があるのは中本健太郎だけだ。そして彼は、5000メートル14分台。トップレベルの選手としてはスピードがあるとは言えないランナーなのだから。

 当然、レース展開に依ることは間違いない。スピードだって無いよりもあった方が有利になることは事実だ。しかし、きっちりと自分のペースを守りながらレースを進めることはそれだけ大切なことなのだと言える。

 マラソンの日本記録は高岡寿成さんが2002年に記録して以来、15年間も記録更新はないどころか2時間6分台という異次元の記録をマークした人がいない。それも彼が始めたのは30歳から。大迫くらいの年代から真剣にマラソンへと取り組まなければ、記録更新はおろか世界と渡り合えるだけの実力は付かないだろう。

 藤田敦史さんが2001年に2時間6分51秒という記録を出したのは24歳だった。大迫は25歳になる。ここでマラソンを経験しておくことが、大迫傑というアスリートが更に遠くへと羽ばたいていくきっかけとなるはずだ。

 今年の夏、川内優輝は第一線から退く。願わくば、大迫傑がそのバトンを受け継いでほしい。市民ランナーから日本の環境を捨てた男へ。異端から異端へ。川内優輝もスターだったが、大迫傑が次世代のスターになる。私は確信している。

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