殴るぞ

色々と思いっきり話します。

内川聖一「究極の技術屋」

 大谷翔平が怪我で出場辞退する。二刀流のスーパースター・大谷がWBCに出られないという情報が、日本列島を駆け巡った。去年からずっと痛めていたとか、自主トレ中は痛みが引いていたとか。さまざまな情報が錯綜している(主にダルビッシュ発信だが)。人間の予想を大きく越えていくストレートを投げ、打っては天才的な打撃を見せるのだから、単純に考えて人の二倍疲れることをしているわけだ。体のどこかがおかしくなっても不思議ではない。ただし、状態をきっちりと観察できなかったのは大谷の自己責任ではある。辞退は残念だが、今はゆっくりと体を治してもらうこととしよう。

 さて、侍ジャパンは大きな柱を欠くこととなったわけだが、いる選手たちで戦わなければならないことに変わりはない。もし全盛期の古田がいたらとか、ゴジラ松井がいればとか。語ることはできても、実際に彼らが出てくるわけではない。追加招集された武田翔太をはじめとして28人でまとまっていくしかないのだ。

 じゃあ、実際のメンツを見てどうよと思うけれど、案外悪くはない。でも、飛びぬけて良くはない。選ばれるべき選手が選出されていて、多くのメジャーリーガーが出場辞退しているこの現状を鑑みれば、決してベストではないがベターな選出だと思う。

 良くも悪くも、大谷翔平という存在が侍ジャパンの象徴でもあったということなのかもしれない。前回の阿部慎之助や前々回のイチローのような存在。坂本や筒香らがそのような選手になってくれれば言うことなしだが、その次に大きな問題が出てくる。それは、キャプテンを陰で支える者は誰になるのか、ということだ。

 ベンチを盛り上げる役は松田宣浩が率先してやるだろう。青木宣親はメジャーでも安定して成功を収めている打撃技術を、チームに還元するはずだ。しかし、個人的には内川聖一こそが適任ではないかと思う。

 球史に残るであろう打撃技術の持ち主だ。7年連続打率3割達成は、落合博満と並んで右打者では歴代1位タイ記録。史上2人目の両リーグでの首位打者獲得者、2000本安打も目前に迫った球界を代表する選手である。青木を天才肌の打撃職人とするなら、内川は感覚と理論を突き詰めた「究極の技術屋」と言える。

 そんな彼が、なぜ適任なのか。それは、彼がこの大会でつかみ取った栄冠と、その場から栄冠が逃げていく瞬間を知っているからである。まず、つかみ取った栄冠については言うまでもないだろう。8年前のWBC決勝。対戦相手は韓国だった。5回の裏、高永民が放った強烈な打球を好捕、ヒットにこそなったものの素早く正確な送球で2塁でアウトにして見せたプレーだ。延長10回にイチローの勝ち越しタイムリーを生み出したのも、内川の出塁からに他ならない。

 一方で、挫折も味わった。4年前のWBC準決勝。8回裏まで3-0とプエルトリコにリードされた状況で、1アウトから3連打で打線がつながる。しかし、4番阿部を迎えた場面。内川はまさかの走塁ミスを犯した。反撃ムードもどっちらけとなってしまったこのプレーで、日本は3連覇を逃してしまったわけだ。つまり、彼は酸いも甘いも知り尽くしていることになる。

 チームには、そのような経験を持つ人物がとても重要になってくる。ましてや、代表戦のような短期決戦ではなおさらだ。そういう選手がチームに技術を還元し、ミスを見落とさないように注意を払えれば。少なくとも世界と対等に戦いうるだけの力はあると私は信じている。

 ベテランの力で、チームが救われたこともあった。4年前のWBCを覚えている人も多いことだろう。2次ラウンドの台湾戦。9回2アウト1塁まで追いつめられた日本は、ここで敗退してしまえば1次ラウンドで敗戦したキューバと対決することになってしまう状況だった。全員が祈るような眼で見つめる中、鳥谷が初球から盗塁を仕掛け、バッテリーに揺さぶりをかけると、2ストライクと追い込まれた井端がセンター前へとはじき返したボールはタイムリーヒットに。

 ベンチにいた選手全員が狂喜乱舞していた中、井端だけは安どの表情を浮かべていた。絶体絶命の場面、どれだけ選手たちが自分たちのことを信じろと念じたとしても、そうそう人は自分を信じられるわけがない。井端も心の片隅で失敗することに怯えていたのかもしれない。だが、信じた。自らの技術を。

 もし、今大会で同じ場面が回ってきたとき。内川聖一であればきっと、チームを救うヒットを打ってくれるのではないかと、個人的には期待しているのだ。そして、内川もそういう立場であることを大いに自覚している。自分はレギュラーではなく、重要な場面で回ってくるスーパーサブである、と。

 

「ここ頼むぞ、という所で仕事ができる存在でありたい」。

 内川は報道ステーションでのインタビューにそう答えていることからも、その自覚が裏付けられる。打者は鈴木誠也に筒香、今年は不振だったが中田もいる。山田に秋山と、バリエーション豊かでかつ、実力のある打者が揃っているわけだ。

 だからと言って、国際大会で実力を遺憾なく発揮できるかどうかは、実戦になってみないことには何とも言えない。絶対に活躍してくれると保障できる選手などいないのだ。だからこそ、国際大会で一定の成績を残した実績のある選手はキーマンとしてあげられるのではないだろうか。

 なおかつ、内川の年齢は34歳。学年では青木が上だが、唯一のメジャーリーガーである彼がいきなり中心に入ってチームを支えることは難しいだろう。国内組では最年長であるし、2大会前には同じチームのメンバーだっただけに、橋渡し役もできるはずだ。

 レギュラーの保障がないからと言って、内川は浮かれていない。それこそが、彼を究極の技術屋として彼自身の技術を更に高めているのかもしれない。このベテラン、一挙手一投足から目を離すことができそうにない。

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