殴るぞ

色々と思いっきり話します。

荒木絵里香「ママさんバレー」

 バレーボールの全日本女子がオリンピック出場を決め、バレーボールファンの方々はホッと胸をなで下ろしたことだろう。セッターの竹下佳江選手が引退し、宮下遥選手に長岡望悠選手など、将来有望な選手が出てきたにもかかわらず、それでも相変わらずいざという時の木村沙織選手という存在が大きなものとなっている。彼女には引力がある。プレー、表情。もちろんルックスが愛らしいというのもあるのだが、彼女を追いかけてしまうような「何か」がある。スーパー女子高生サオリンだった彼女も気がつけば30歳。そりゃあ、私たちも年を取るわけである。

 さて、そんな中でもう一人、代表になくてはならない存在がいる。荒木絵里香選手、彼女だ。彼女のその存在感から「アラキング」と呼ばれていたが、今の彼女はキングではない。「お母さん」のように見えるのだ。一つのガッツポーズ、チームを鼓舞するその姿はキングと言うよりお母さんという雰囲気がピッタリではないだろうか。まるで、若くてイケイケなムードが漂う中でも、一人だけ大人のよう。サオリンでも、迫田さおり選手でもない。最年長の山口舞選手もどこかチームの中では「お姉さん」的な雰囲気に見える。荒木選手は違う。ドンと構えて動じない。前主将であるために落ち着き払っているというのもあるだろうが、チームのムードが悪くなってもしっかりと変えられる。安心感があるといってもいいのだろう。

 だから彼女は「お母さん」なのだ。

 プライベートでもお母さんであることは知られている。かなりの難産だったようだが、旦那さんの洋平さんを始めとして、周りの人たちからの理解を得て彼女は再びバレーボール選手として頑張っている。女性アスリートは出産を経てしまうことで、筋肉の減少や体質の変化などが訪れるのだという。そうすることで、かつてできていたプレーができなくなるというケースも珍しくないのだ。

 しかし、荒木選手は現役復帰後も安定したパフォーマンスを披露。サーブ、ブロックにおいては培ってきた経験と技術を武器にリーグの中でもトップクラスの成績を残していることが証明されている。高い安定感と経験を武器とした老獪さは更に増している印象がある。代表デビューして10年以上経過している荒木選手は主将という形でチームに貢献し、お母さんとなった今回は後輩主将のサオリンを助ける立場となって、再びオリンピックに導いた。

 世界のトップ選手たちを良く知る立場であるからこそ、矢鱈と止めに行くのではなく類まれなる判断力と経験で攻守に貢献する。これもまた、荒木選手がいることによるものであると、考えてもいいだろう。「荒木がブロックに跳ぶと後ろの守備もいい。目に見えない得点でしょう」というのは真鍋政義全日本監督の言葉だ。

 良くも悪くも課題も出てきた最終予選。未だにベテラン選手に頼っているという点では、確かに課題ではある。荒木選手やサオリンを越えるような若い選手が出てこなければ、あたオリンピックに参加するだけのチームに逆戻りしてしまうことは否めないだろう。

 だからこそ、恐らくキャリアとしては最後になるであろう彼女たちは、歴戦の経験を若手へと伝えていかなければいけない。先輩から後輩に、語り継いでいくべきものを。そんな彼女はどこか日本代表をずっと引っ張っていた遠藤保仁選手ともどこかダブるものがある。

 アスリートとしての時間は短い。30を超えれば尚更だ。そこで語り継いでいくもの、想い。心。技術的な部分でも良い。リオ・デ・ジャネイロでは彼女たちが後輩への「教科書」となっていかなければならないのだ。

 しかし、どれだけ語り継いでも天性の感覚と存在感は受け継ぐことはできない。それは厳しい舞台を積み重ねることでしか培うことができないもの。荒木選手の存在感は、まさしくそれなのである。

 これも母性の成せる技なのだろうか(絶対に違うと思う)。荒木選手はチームでエンジンを組んでいる時にも目線が上を向いていることが多い。何を考え、何を思い、何を狙っているのかは分からない。しかし、常に喜ぶだけでなく次のプレーを冷静に考えていることは確かだろう。

 高い技術と頭脳、そして安心感。直接のポジションでは島村春世選手に受け継いで行くこととなるのだろうが、どのような形でどう具現化していくのかはリオでのお楽しみというところだろうか。天性の体格とセンスに恵まれた荒木絵里香選手。リオで見せる「ママさんバレー」は、きっと全日本のメンバーに大きな力を与え、勝利へと導いてくれるに違いない。そして、貴重な財産を残してくれると私は信じている。

 しかし、本当に彼女のことを「お母さん」と呼んでしまいそうである。サオリンが荒木選手の家に上がり込み、カレーのおかわりを要求している姿を見て旦那さんと娘さんが唖然としている光景が目に浮かぶ

 さて今晩はカレーがいいと思うのだが、イタリア戦見ながら食べたんだよなあ。

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