殴るぞ

色々と思いっきり話します。

ノバク・ジョコヴィッチ「絶対王者は砕けない」

 この絶対王者を破る術は、どこにあるのだろうか。完璧なリターンに代表される、精度の高く多彩なショット。動じないメンタル。ノバク・ジョコヴィッチ選手のすごさを列挙すればきりがないほど、多くある。

 セルビアベオグラードで産まれたこのセルビア人は、まさしく今世界の頂点へと君臨し続けている。サッカー選手でありスキー選手であったという父のDNAを受け継いだノール(ジョコヴィッチ選手の愛称)は、ユーモラスな言動とパフォーマンスでも知られており、多くの人たちに愛されている。1987年生まれの29歳。当時はユーゴスラビア連邦共和国という巨大な社会主義政権の国だった。

 しかし、多くの国民が翻弄されたようにノールも同じように巻き込まれた。仕事がなくなった家族はノールの才能に賭けるしかなかった。それが、ドイツへのテニス留学だったのだ。しかし、そんなことをしてしまうと一家はさらに困窮してしまう。ノールの家族はそんなジョコヴィッチに全てを賭けた。10歳の時点で、彼にはプロテニスプレイヤーになるしか豊かな生活を送る方法がなかったのだ。現在、ノールの家族は故郷のセルビアでレストランを営んでいるのだという。

 ノールは当時のことを松岡修造さんのインタビューでこう答えている。

「ドイツに渡ってからのこと。周りの人たちはHow to playを学んでいた。けど僕はHow to winを学んでいたんだ」

 どうすれば勝てるのか。どうすれば生き残るのか。ノールはいつでも真剣に考え、それを実行に移してきたというわけだ。そこで培われたのはデル・ポトロ選手のような超高速サーブでもなく、ナダル選手のようなスピンの効いたストロークでもなかった。長身と敏捷性を活かした広大な守備範囲と体勢を崩されてもボールを返すことのできる柔軟性。持久戦にめっぽう強いメンタリティー。ノールのスタイルはまさしくHow to winにふさわしいものではないだろうか。

 その高いプロ意識はオフの生活でも徹底されている。グルテンフリーの食事を実践し、徹底していることは有名で、日本でも著書が刊行されているので詳しい方も多いのではないだろうか。試合中に意識を失うこともあったというノールはさすがにピザ屋の息子であったために、グルテンのアレルギーと知ったときはショックだったという。

 しかし元々ち密に、そして耐えて勝利を狙うことをプレースタイルとしていたノールにとって、それを「耐える」ことは難しい問題では無かったと言える。それが彼を「ただの良い選手」から「世界ナンバーワン」に変えたとまで言われているからだ。

 そんなノールが錦織圭選手を迎えた今回のローマ・マスターズ。この試合、ノールは明らかに体が重かった。それには訳があった。足のケガ。シューズにははっきりと出血が確認できるほどになっており、それがノールの調子を悪化させている要因でもあったわけだ。

 だが、そんなこと対戦相手には関係のないこと。錦織選手も明らかにミスが多く、身体にキレがあまり見られなかったのは、連戦の厳しい試合を勝ち抜いてきたからに他ならない。世界ランク1桁というのはつまり、これだけの厳しい戦いをこなしていかなければならないという無理難題も強いられているわけだ。

 そんなノールはトラブルを抱えながらも、錦織選手の粘りをはじき返した。うまく行かずにいらだって審判に注意されてしまうこともあったわけだが。最終的にはあと一歩まで追い詰められたものの、土俵際で何とか粘って勝利したというところだろう。

「ケイを賞賛するよ」。その言葉には嘘偽りは、決してないはずだ。スタッツにしてわずかに1ポイント。ノールはそれでも勝利したのだから、身体やメンタルに対するセンサーが素晴らしかったというしかない。

 さて、それでも勝利できなかった錦織選手。しかし、これに落胆することはないだろう。すぐに全仏オープンがやってくるからだ。元々、体格こそ違えどタイプとしては似通った二人。両者がかみ合えば、またこのような熱い試合を繰り広げてくれるのではないだろうか。

 絶対王者としてノールの挑戦はまだまだ続くだろうが、しかしノールは決して慢心することもないだろう。その些細な慢心から多くの人がすべてを失ったという事実もまた、賢い彼であれば理解しているはずだからだ。油断をすれば、錦織選手のように追い詰める相手をうっちゃって勝利することができなくなることを、彼は良く知っている。

 まったく、この試合を放り投げてもう寝ようと決めたやつは一体全体どこの誰なのだろうか(私です)。さて、明日にはもうジョコヴィッチとアンディ・マレー選手の試合が行われることとなる。絶対王者か、ノールと共にビッグ4の一角として知られるアンディか。戦績では圧倒的にノールのほうが有利だが、果たしてどうなるのだろう。

 油断も隙もない絶対王者のテニスを、一個人としては見てみたいものである。

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