殴るぞ

色々と思いっきり話します。

勢翔太「プータロー力士」

 三役に選ばれた力士内でもひときわ整った顔立ちをしている力士がいる。それが、勢翔太こと本名・東口翔太である。寿司屋の息子として生まれた勢は、身体が弱く喘息気味であったという。ひときわ体が大きく、未経験ながらわんぱく相撲で優勝したこともある。そんな翔太少年を見かねた両親は寝屋川市に住む澤井さんに勧誘されて、地元の交野市で澤井さんの息子と相撲道場に通い始めたのが、始まりだった。

 さて、そんな澤井さんの息子の名前は豪太郎。相撲の天才・豪栄道豪太郎のことである。そんな相撲の天才の稽古相手を務めていた翔太少年は、やがて病弱だった身体はいつしか強くなった。外遊びをし過ぎて「過労」で病院に運ばれることとあいなってしまうほどだから、相当だろう。

 しかし、東口は中学を卒業すると、高校にも通わずにフリーターとなる。同い年でライバルの澤井は相撲の名門・埼玉栄高校に進学してしまった。そこでできた些細な差。角界に入ってくれることを期待していた祖母の死に目にも会えなかった。そのような中で、生まれてきた思い。「相撲をやりたい」ということだった。兼ねてから親交のあった伊勢ノ海親方(現役時代は藤ノ川)に入門を志願し、18歳で力士となったのだ。

 生まれ持った天性の体格を活かした相撲はとてもパワフルであるが、柔軟性に欠けるためにどうしても勝ちきれない。特に前頭3枚目以降になったときに勝ち越したことが一度もないのだ。これだけのポテンシャルがあるにもかかわらず。時代が時代ならば、稀勢の里よりも早く「怪力力士」として名を馳せていたかもわからないのである。

 ちなみに、そんな勢が勝ちきれないのにはどうもカラクリがあるのだという。勢は角界でも屈指の「遊び人力士」、ゴルフもうまければ歌もうまい。人当たりも抜群に良く、顔も良い。持っているポテンシャルもとても高い。本人は自分のことを不器用と評しているが、おそらく要領がすごくいいおかげで今までは何とかなって来たのだろう。

 しかしだ。今まで通りそれだけを期待することに、いったい何の意味があるのだろうか。我々はもっと勢に期待してもいいのではないか。最高位こそ未だ関脇より上へ行かないが、勢ほどの身体を持った力士であるならば、それ相応の結果を求めても良いのではないだろうか。

 それこそ小学校時代からのライバルであろう、澤井よりも上のレベルを。

 しかし、しかしだ。なかなかそんな彼に苦言を呈することができない。勢がとても好青年であるということは周知のとおりであるし、一生懸命頑張っているというのも伝わってくるのだ(イケメンというのは、本当に得である。妬んではいない)。

 関取になってからは一度もケガでの休みもなく、時々は優勝戦線まで飛び出してくる。飛び抜けて素晴らしい相撲をするわけでは無いけれど、それでも成り上がってきた力士という点では、どこか親近感も沸く。当然ここまでやれるのは彼の才能ゆえではあるが(相撲甚句というもう一つの特技もある。イケメンで歌が上手いとか、まじでうらやましい)、今の力士には珍しい社会を一度経験してから力士となっているという点でもどこか共感するものは多い。

 私も一時期、無職だったことがある。あの時期というのは本当に辛い。先も見えないし、何をしていいかが分からないからだ。勢も同じだったのだろうか。それは本人に訊かなければわからないことであるが、いずれにしてもそれだけ稀有な体験をして角界に入ってきているということなのだ。苦労人力士といってもいいかもしれない。

 そんな彼だからこそ、私は彼のことをとてもひいきしてしまう。そんな彼が「エレベーター力士」と言われてしまうのは致し方ないと思う一方、どこか歯がゆい。

 さて、今日の取り組みで勢は鶴竜に勝利した。豪栄道のようなうまさは無いものの、馬力の強さは上位にも十分に負けないのだ。だからこそ、もっともっとと期待してしまう自分がいる。三役でも小結や関脇が元気だと、やはり見どころが多くなり大相撲が楽しくなる。相撲を知らない人がいらっしゃるのであれば、是非ともこの「イケメン力士」にも注目してもらいたい。飽きることのない魅力が、彼にはあるのだから。

 角界の成り上がり力士である彼が、上位との対決を行う時。それは、場所が荒れる時。荒れた場所は面白い。そういう時に神様がどんないたずらをしてくれるのかを楽しむのも、また一興だろう。勢が相撲を取れば、場所に「勢」がつく。

 ……お後がよろしいようで。

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