殴るぞ

色々と思いっきり話します。

ジダンの持つカリスマ性。名将への道へと向かうための鍵。

 ラファエル・ベニテスが引かされた貧乏くじは、ベニテスのキャリアにとって良かったかどうかは別としても1月で解放されることと相成った。スペイン人の戦術家は、スター軍団を束ねるにしてはやや型に嵌め過ぎる傾向にあったことは言うまでもない。リヴァプール時代からスティーブン・ジェラードとの関係は決して良好なものと言えなかったし、レアル・マドリーでもクリスティアーノ・ロナウドとの関係は最悪だった。いずれにせよ、白い巨人から追放されたラファの代わりに就任したのは、かつての英雄だった。

 ジネディーヌ・ヤジッド・ジダンアルジェリアの血を引くベルベル人の子供として生まれたジズーは、港町マルセイユで犯罪に巻き込まれることなくまっすぐに育った。

 後にフランスをワールドカップ優勝まで導き、クラブレベルでもあの伝説的な左足ボレーをさく裂させ、そしてヒステリックな形でその現役生活に幕を閉じたジズー。レッドカードを14枚貰うほど頭に血が上りやすかったが、本来はシャイで寡黙であることは多くのサッカー好きには知られていることである。決して第三者に対して不快な印象を与えないその人柄は誰からも愛された。そして、10年ぶりに彼はトップリーグのピッチに帰ってきた。正真正銘、チームを束ねる「将軍」として。

 しかし、往々にしてレジェンドと称される人物は名将になれないという風評被害に悩まされがちだ。これは、現役時代の自分自身の感覚を信じるあまり、結果として選手たちがついてこれないからであるとされていることがまずあるはず。それと、現役時代にそれほど実績を残したわけでは無い人物が監督を行うとファンからすると、印象に残りやすいというのはある。ルート・フリットやCL制覇こそしているがフランク・ライカールトもそうだろう。それにゼリコ・ペトロヴィッチ(前の二人からするとランクは圧倒的に落ちるが)もそうであると言える。

 ジズーはその点、監督になるにあたり相当な勉強を積んでいる。カスティージャでコーチの勉強を行っていた際には最良のテキストがトップチームに存在していた。レアルを「ラ・デシマ」に導いたカルロ・アンチェロッティである。来季からバイエルン・ミュンヘンの監督として現場に復帰するイタリアの名将からスター軍団を束ねる帝王学を肌で感じることができた最高のひと時だったと推測する。現役時代にもビセンテ・デル・ボスケ現スペイン代表監督の下で、スター選手たちの手綱を握る方法を学んでいたことも大きかったように思える。

 では、そのような中でジズーは何を学んだのか。それは「奇策を用いず、王道で戦う」ということだ。

 監督が選手たちに、スタジアム内で効果的に指示を送れるチャンスは3つに限られる。1つ目はロッカールーム内、2つ目は選手が負傷したことによりゲームが途切れた時。そして3つ目が選手交代である。選手起用も含めてこの3つ目は特に監督にとって大きな権限を保障している(例外もあるにはあるが)。

 そのような中で、監督は自らの手腕を証明するために時々奇策に走ってしまう人物がいることを我々は留意すべきである。端的に言えば、そんな奇策は当たらない。ペップ・グアルディオラフース・ヒディンクのような世界的な名将のように、試合の流れをガラリと変えられるような人物に限られている。

 だからこそ、ジズーは何もしない。いや、選手交代やローテーションは行う。余計なことを行わないという点で何もしないのだ。下手な奇策が、却って選手たちのパフォーマンスに影響を与えることをジズーは良く知っているためだ。反面教師として、星占いを基準に選手を選考していたあの人のことも「反面教師」として学んでいるに違いない。

 奇をてらった采配の必要が一切ないくらい、戦力も揃っているのだ。

 ペペとセルヒオ・ラモスのCBにはラファエル・バランという大きな控えがおり、モドリッチとクロースが中盤に鎮座しているかと思うと、前線はBBC。CL決勝ではベイルの欠場が囁かれているが、それすら問題ないのではと思うくらい重厚な選手層に、ジズーは恵まれている。

 余計な行為によって破壊するのではなく、静観し見守ることこそ采配の神髄ではないだろうか。穏やかな表情からは想像できないほど煮えたぎるものを見せていた現役時代と変わらない、サッカーへの情熱。立場こそ変われど、変わらないのは勝利への執着心。そこには師事したアンチェロッティデル・ボスケの影がうっすらと見えている。

 新人監督となると何かしら目立とうと躍起になるものだが、ここまで穏やかに見守る監督というのも珍しい。ジズーの「威厳」が為せる技と言える。だからこそ、些細な秩序を与えるだけでチームはここまで変えることができるのだ。仮に秩序が乱れても、二言三言で解決できる力が彼には備わっているのだろう。

 カリスマ性という最大の武器こそ、ジズーが今後名将へと駆けあがっていく道なのだ。

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