殴るぞ

色々と思いっきり話します。

マヌエル・ペジェグリーニ「サラリーマン指揮官」

 割と損な役回りが多い指揮官である。しかし、標榜するサッカーはいつだって魅力的で有り続ける。マヌエル・ルイス・ペジェグリーニ・リパモンティとはそういう男だった。故郷のチリでプレーし続け、現役選手としてのキャリアもチリで終えたDFは監督としてのキャリアもチリでスタートさせている。しかしその手腕が注目されて、エクアドルで結果を出したとき、既に彼は「南米屈指の名将」として名を知られていた。LDUキトでの好成績を評価され、アルゼンチンではクラブ・ワールドカップで話題になったリーベル・プレートでの指導経験もあるほどだ。

 ヨーロッパに拠点を移したのは2004年の夏から。当時スペインの小さなクラブでしかなかったビジャレアルCFに監督として招聘される。1998年にやっとリーガ・エスパニョーラプリメーラに昇格したバレンシア州カステリョン県の一クラブは、ファン・ロマン・リケルメらを中心としたチームをビクトル・ムニョスによって強化されており、欧州カップ戦にも出場するほどの実力を付けていたのだ。

 そんなクラブをムニョスから引き継いだペジェグリーニディエゴ・フォルランリケルメを中心とした攻撃的サッカーはヨーロッパを席巻。FCバルセロナレアル・マドリーのように高額な選手を購入することもできないながらもペジェグリーニのサッカーは極めて魅力的であり続けたのだ。

 だからこそ、ペジェグリーニはビッグクラブへと声をかけられることとなった。前述した「銀河系軍団」のボス、フロンティーノ・ペレスに請われる形で。

 とても約束事を重要視する人物である。チリでは大学まで卒業し、土木技師の資格を取得しているのか、重要なポイントをしっかりと抑えて組み立てることを得意とする。その一方で、ビッグクラブでは必ずしも細かなディティールにこだわることが大きな災いを招くことも彼は心得ていた。誰しもがペップ・グアルディオラのようなインテリジェンスを、ディエゴ・シメオネのような激しさを持っているわけでは無い。ペジェグリーニはそういう点でも有能な指揮官であったことは言うまでも無いだろう。現にレアル・マドリーではクラブ記録となっていた勝ち点96を更新して99に伸ばしたのだから。

 優勝したチームがバルサでなければ、ペレス会長もペジェグリーニを手放すという愚行はなかったかもしれない(もっとも、それでやって来たのがモウリーニョなのだから、何とも言えないところではあるのだが)。手放されたときにこのとき日本サッカー協会は彼にアタックをかけている。結果として縁がなく、アルベルト・ザッケローニが監督として就任したわけだが「ペジェグリーニ・ジャパン」も見てみたかったところではある。

 そして当時の技術委員長だった原博実氏の慧眼は嘘でなかったことが、マラガやマンチェスター・シティでの活躍からうかがえる。マラガもシティもオイルマネーによって強化を図られていたチームではあったものの(後にマラガは資本が撤退してしまうのだが)、シティではリーグ戦初タイトルとカップ戦での優勝まで経験している。何よりもUEFAチャンピオンズリーグではマンチェスター・シティを初のベスト4にまで導き、国内だけのチームでないことも証明した手腕は、もっと評価されてもいいだろう。

 悲しいかな、ペップという唯一無二の天才が指揮官に就任することとなった今年の夏。もうペジェグリーニの雄姿をマンチェスターでは見ることができるのは、あとわずかだ。

 しかし、ペジェグリーニがフリーになると聞いて大人しくしているほどサッカー界は悠長ではない。現にACミランは次の監督としてこのチリ人指揮官を招聘しようと計画しているのだから。1953年生まれの彼にとっては、おそらくこれがトップリーグで指揮を執る最後の機会となることだろう。そんな最後をペレス以上にわがままなシルヴィオ・ベルルスコーニの下でキャリアを食いつぶす真似をしていいものなのかどうか。それは分からない。しかし、シニチャ・ミハイロヴィッチピッポインザーギクラレンス・セードルフはそれにより割を食っている。キャリアや実績が異なるとはいえ、短気なベルルスコーニ「大統領」のことだから結果が出せなければすぐに捨ててしまうかもしれない(中国資本が乗り込もうとしているそうだが、それも果たして真実かどうか)。

 イタリアの手のひら返しが激しい評論家からも、プロフェッショナルな選手がいないと嘆かれている赤黒の名門チームをペジェグリーニは導くことができるのかどうか。少なくとも、レアル・マドリーマンチェスター・シティでの実績から考えるに、それは十分に可能だろう。あとは、会長の堪忍袋の緒がシーズン中に切れるかどうか。それ次第だ。

 安易な監督交代とプロフェッショナルな選手たちの欠如によって招かれているこの現状を打破するには、やはりとても有能な指揮官を招聘するしかない。ペジェグリーニはそういう点において紛れもなく有能な指揮官であることは証明されている。イタリアにルーツを持つ、マヌエル・ルイス・ペジェグリーニ・リパモンティがキャリアの最後として赤黒のチームを救い出すのかどうか。しかし、そうしてみるとなかなか損な役回りばかりを彼に押し付けられているようで、同情の念すら浮かんでくるというものだ。

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