殴るぞ

色々と思いっきり話します。

廣田雄希「サックスブルーの憎いやつ」

 思うと、前回からそれなりに期間が離れてしまっていた。ほぼほぼ覚えている人などいないのではないかと思いながら、それでも書いていこうと思う。実のところ、誰もが認めるようなランナーが一色くんや服部弾馬くんだったわけだが、町澤くんと中谷くんはあくまでもまだ学生レベルの存在であると考えている。これほどまで中学や高校で飛び抜けてきたランナーも、大学や社会人と通っていくにつれて、自分の実力を思い知っていく。

 もし野球やサッカーなどのチームスポーツであるならば、スタイルの転換も容易なのだろうが、陸上はそういうわけにも行かない。純粋に身体能力プラスアルファ、駆け引きしかない。自分と才能のある選手たちの差を感じながら、自然と淘汰されていく。しかし、日本には駅伝がある。陸上競技長距離走の中で唯一のチーム競技。批判される部分も多々あることは承知だが、そうやって淘汰されていく中でも受け皿としての能力があるのは素晴らしいことだと思う。

 学生駅伝は特に時間の限られている部分は、高校野球と似ている。言わずもがな、それはすべての学生スポーツに言えることだとは思うが。だからこそ、最上級生が「味のある」走りをすることに大きな意味があるのだ。

 前置きが長くなったが、今回紹介する廣田くんもまさに「味のある走り」ができるランナーである。高校時代は名門・西脇工業高校で中谷圭佑くんと同級生。全国高校駅伝にも出場しているエリートだ。入学時には「東海にすごいやつが入る」といううわさがあったほどなので、高校時代からそのレベルはずぬけていたと言ってもいいだろう。間違いない。

 東海大学にはそういう図抜けた選手が時折、入学してくることでも知られる。佐久長聖高校のスーパールーキーだった佐藤悠基選手や村沢明伸選手、村沢選手と同級生の早川翼選手もそうだった。今だと、川端千都くんもその系譜にあたる。廣田くんは名門高校から入学し、そのポテンシャルの高さに誰もが期待をするほどだった。

 その能力に見合った結果かどうか。それは私のわかることではない。確かなのは、服部くんや一色くんは飛び抜けているということで、能力の高いランナーが大学の門を叩きやってくるということ。そして、大学という環境で激しい競争にさらされ淘汰されていくということ。廣田くんは現在、確かに学生トップランナーではないだろう。

 タイムは10000メートル走28分台、5000メートル走14分台。学生としても実業団でもそこそこ戦えるレベルのランナーではあるけれど、そこから先はどうだろう? 世の中とはそういう物だと割り切らなければならない。そうやって人は自分を思い知ることとなる。それはどの業界でも一緒だ。

 大学陸上部という狭い世界から、社会人という大きな世界へと飛び出していくこととなる。そうなる前に、最上級生は残すことができるものがある。それが競技への姿勢であり、シード権という形であり、個人成績という結果である。廣田くんがこれから陸上を続けるかどうかはわからない。オリンピック代表になれるかどうかは彼次第だろう。そうじゃない。サックスブルー東海大学には高校時代ブイブイ言わせていたランナーが続々入ってくる。昨年だと湊谷春紀くん、今年は關颯人くん。今年の箱根では湊谷くんも川端くんも結果は芳しいと言えない。その中で宮上翔太くんらを始めとする最上級生と廣田くんを始めとする3年生の奮闘によってシードを手にしたわけだ。

 最高学年となる廣田くんはチームを引っ張っていかなければならない。幸か不幸か、東海大学は総合優勝を経験していない。優勝には全員の力がかみ合わなければできないこと。そのためには、廣田くんの力が不可欠なのである。サックスブルーのユニフォームが、大手町を出てから真っ先に帰ってくるまで。駅伝とは「強さ」である。その強さを見せることができるかどうか。

西脇工業の陸上エリート」は「期待のルーキー」から「サックスブルーの憎いやつ」に。それは高校陸上を経験してきた選手たちに現実を突きつけ、尻を叩いて励ます役割。廣田くんの最終学年はどうなるだろうか。それを占う立川ハーフマラソン。1時間3分8秒は自己ベストで2位に入賞。今回の3区では大体区間3位以内。今回5位だったことを考えれば、パワーバランス的にも十分上位校に匹敵するレベルの記録と言える。一つの答えと結果は出したわけだ。

 神野大地くんらが卒業した青山学院大学も絶対的な存在ではない。駒澤大学東洋大学にもチャンスがある。早稲田大学東海大学が台風の目となることは間違いないだろう。その中で、一人の絶対的存在として輝くことができるかどうか。駅伝とはわからない。個人能力が突出しているだけで勝利が保障されているわけでは無い。全員が役割を果たしたとき、廣田くんはきっと大手町で笑顔を見せることだろう。それを願って、彼の活躍に期待したいと思う。