殴るぞ

色々と思いっきり話します。

町澤大雅「気になるあの子の鉢巻き」

 一走入魂。白に赤い文字が刻まれた鉢巻きを巻いて走るランナーを覚えているだろうか。町澤大雅くん、彼は今どき珍しい「魂で走るランナー」だ。彼は高校時代、飛び抜けた実績があるわけでは無い。今でこそ10000メートル走28分台のランナーとして知られているが、スピードがあるランナーではない。それでいうなら一色くんや服部弾馬くんのほうが断然スピードはあるだろう。しかし、彼のレースはとにかく「攻める」。攻めて攻めて攻めまくるような気持ちの入ったランナーである。

 だからこそ、彼には1区という区間がとても向いている。理由は2つある。

 理由その1。最近の傾向でもある「高速レース」の一端は1区にスピードランナーを配置していることが要因だ。油断をすればすぐに出遅れる。3位に入ったとはいえ、駒澤大学が優勝争いから早々と脱落したのは端的な理由だ。スピードがなかったからである。区間賞を獲得した久保田くんや明治大学の横手健くんは、他の大学であればエース区間を走っていても不思議ではないし、中央学院大学の潰滝大記くんは例年であれば2区でも不思議ではなかったほどだ。町澤くんは前述のように28分ランナーである。学生駅伝というカテゴリーに限って言うのであれば、その力は十分にあると言えるだろう。

 理由その2。スピードと同じくらい重要となってくる「競り合いの強さ」だ。早稲田大学が大迫傑選手を使って箱根駅伝優勝を達成してから先行逃げ切り型のチームが多くなってきたが、その大迫選手は4年時に区間賞も獲得できずに失速してしまった。チームから離れてスピード練習にこだわっていたことから端を発しているのだが、他のチームも挙って「スピードランナー」を入れて対抗したことが原因でもある。競り合いには負けないというメンタルの強さとタフさ。町澤くんは決して潰れることなくタフに戦える。こういう選手は本当に強い。

 競技レベルが向上したことに伴って、特にここ数年でトラックレースのレベルは急上昇している。大迫傑選手は5000メートル走のタイムを大幅に更新し、村山紘太選手は10000メートル走の記録を更新した。鎧坂哲哉選手はそれぞれ更新した上で歴代2位の記録を持っている。しかし、いかに優れた結果を持っていても最終的に勝負を左右するのは「ハートの強さ」である。何も根性論を語っているわけでは無い。世界では彼らよりももっと優れたタイムを持ち、そしてハイレベルな戦いが繰り広げられている。ビダン・カロキ選手やモハモド・ファーラー選手たちよりも順位が上に行くためには相手にのまれないことが大切なのだ。もちろん、才能や実績はそれらを左右することになるだろう。しかし、最初から負けると思って戦うことに、果たして何の意味があるだろうか。

 町澤くんは間違いなくその「気持ちで負けない」ランナーの一人である。「昔ながら」という言葉のほうが響きやすいかもしれない。彼が上のカテゴリーでやるには相当な努力が必要かもしれない。もっとスピードもスタミナも磨いていかなければならないだろう。レース展開を読む力やメンタルの持って行き方。トレーニング。とにかくたくさん積んでいかなければ、彼らが持つ能力には追いつけないだろう。しかし、だからこそ個人的には楽しみなのだ。町澤くんのような気持ちで走るランナーに、日本人トップクラスのスピードとスタミナが付いた時。大きな化学反応が起きるのではないだろうか。それは何よりも、誰もが望んでいた化学反応だと思う。

 箱根駅伝の特集で彼を見た時のことだ。失礼ながら彼はあまりコミュニケーションをとることが苦手な人物という印象を受けた。しかし、誠実に自分の思ったことを正直に伝える彼の姿にはある種親近感も覚えたのだ。素直で、積んできたトレーニングを誰よりもまっすぐに信じて、愚直に戦う。手を抜くことができない性格の彼に、一走入魂という鉢巻きは性格をそのまま映しているようにも見える。

 イメージと見た目はとても大切で、例えば設楽兄弟や神野大地くんが一走入魂の鉢巻きをつけて走っても「なんか違う」と思ってしまう。佐藤悠基選手にはスポーツグラスとサックスブルーのユニフォームがとても似合っていたし、宇賀地強選手が歯を食いしばって走らなければ、失礼だがそれは宇賀地選手ではない。

 それと同じように、町澤くんにはその鉢巻きと中央大学のユニフォームがとてもよく似合う。駅伝というチームスポーツにおいて、彼は自分の身を犠牲にして戦うことができるランナーではないだろうか。その一方で、彼が個人競技とも言える他のレースで今後どういう結果を残すのだろう。チームの結果に関わらず、自分の結果だけが求められるレースで。駅伝だからこそ、輝くことができるランナーというのもいるにはいる。しかし、彼にはまだ可能性がある。この1年でそうなってしまうランナーになるのか、それとも違うのか。見極めて結論を出したいと思う。