殴るぞ

色々と思いっきり話します。

リアル -箱根駅伝往路-

 本当に思いつきだった。鶴見中継所を過ぎて、もしかしたら箱根湯本付近で生で見ることができるのではないかと直感した。都内に住んでいる自分からすれば、特急電車を使わなくても2時間ほどで箱根まで行ける。やってみよう。そこからはあっという間だった。素早く準備して、そのまま小田急線に飛び乗ったわけだ。

 実は箱根駅伝を生で見たことが一度もなかった。大歓声とランナーの息つく声、ただ必死にたすきをつなぐ姿は感動を誘うが、それはあくまでテレビでの話。生での観戦はまた違うものがあるはず。最近はリアルで見ることを意識しているだけに、時間があるなら行ってみようという衝動だけだった。

 当初の予定では、箱根湯本駅での観戦予定だった。ところが、小田急線のアナウンスを聞いていると予定通りには到着できないことが分かった。これでは、走っているランナーを見ることができない。急遽小田原で降りて、小田原中継所での観戦に切り替えた。これが大当たり。到着した時点で11時30分を回っており、30分後くらいには4区のランナーが通過するような状況。

 電車を降りたら猛ダッシュ。それこそ箱根を走る選手と同じような勢いで。もう見たくて見たくて仕方がない気持ちを抑えきれなかった。ぞろぞろと歩いていく人ごみを避けて、国道1号線へと走る。そこに待っていたのは、沿道の旗や多くの人。テレビで見慣れた沿道だった。結局中継所まで行くことはできなかったものの、できる限り近い場所で見ることができたと自負している。実際到着した時にはもう観客でいっぱいだったが、沿道のおじさんに「もっと前へ行きなよ。そこからじゃ見えないだろう」と気を効かせてもらい、前で見ることができた。彼のおかげで臨場感を味わうことができた。ありがとうございました。

 到着直前で先頭通過は残り10分。先導者が通過して、白バイが通り過ぎるとやがて中継車が通り過ぎる。あっという間に青山学院の田村くんが通り過ぎると、ドンドン後続のランナーが走ってくる。たった10分間だけのできごとだったが、誰もがその10分を待ち望んで楽しみにしていたのだろう、選手たちが通り過ぎた後には満ち足りたような表情をしていた人が多かったのが印象的だった。彼らの走りが、直接何かを与えてくれるわけではない。ましてや、彼らにその歓声が届いているかどうかもわからない。

 それでも、私たちは「頑張れ!」と歓声を送り続ける。最後まで諦めない気持ち、思いを託す気持ち。日々の生活に、自分の人生に重ね合わせるのかもしれない。ベストを尽くしても、それでも届かないことは日常生活においてよくあることだ。だからこそ、その悔しい思いを託す。長距離走で唯一のチームプレーとなる駅伝には、長い距離だからこそ見えるストーリーがある。

 その後のレースは言うまでもないだろう。青山学院大学の神野くんが最後まで逃げ切って往路制覇、3分差で東洋大学が復路を追いかけるという構図となった。優勝争いはこの2校に絞られることとなった。一方でシード争いは面白いこととなっている。7位の順天堂大学から14位の中央学院大学までどの学校も可能性のあるレース。高速レースとなった今回、5区でもある程度集団になっていたことが、大きな順位変動が起きたのかもしれない。タイム差もそこまで広がっていないため、復路が楽しみなレースとなりそうだ。その後、中継所から一番近い茶屋でテレビ中継を観戦した。5区のランナーが山を登り、そして芦ノ湖でゴールテープを切っていく姿を目にしていた。

 選手たちのレベルが確実に上昇し、些細なミスからドンドンとタイム差が広がっていく。しかし、ランナーがゴールテープを切るたびに拍手が沸き起こった。当然、私たち一般人と箱根を走る選手たちでは大きな差がある。血の滲むような努力をして勝ち取り、箱根に選ばれたランナーなのだから。当然、いい結果もあるし悪い結果もある。だからこそ、自然と拍手が沸き起こったのかもしれない。

 帰りの電車はほとんど眠っていた。朝からテンション高いままで走り、大きな声で歓声を送り、全ての緊張から解放されたわけだ。帰りの急行電車での記憶も、あまりない。気がついたら代々木上原で今日の臨場感を、多くの人が感動して帰っていく姿を。これが正月の風物詩であり、92回繰り返されてきた歴史なのだ。そしてそれは、これからも続いていくのだろう。その1回に触れることができたこと。今年、多くのスポーツイベントに参加したいという思いも引き出してくれるきっかけにもなりそうだと感じた。

 残念ながら、私は復路の走りを見ることができない。大きなブレーキもなければ、青学が優勝するだろう。しかし、どこでアクシデントが起こるかもわからない。そのリアルに触れることができないのは残念だが、それも醍醐味というものだろう。今はどこにいても、情報が入ってくる。そうやって楽しむのも一興。さあ、春が始まる。