殴るぞ

色々と思いっきり話します。

トーマス・シャーフ氏講演(2)

 トーマス・シャーフ氏のサッカーへの熱は凄まじいものだった(当たり前、と言われればそれまでだが)。実直な人柄の彼らしく明確で、かつシンプルな哲学が見て取れた。

■攻撃的なサッカーとは何か?

「ボールを奪ってから攻め上がるという意思統一がなされているからではないか? ボールを奪ってから相手陣形が整う前にゴールすることが大切で、今日の攻撃的なサッカーは皆そうなっているはずだ」

 シャーフ氏はそのように語る。ただし、彼が指導する上で大切にしていたのは「選手たちが何をしたいのか、望んでいるか」だという。組織的なサッカーでジエゴというファンタジスタタイプのプレーヤーをうまく扱うことができたのはその「幅」も大きかったように思える。

「私はサッカー選手として喜びを当たることを(指導における)メソッドの一つとして考えていたんだ」

 攻撃的なサッカーになるのは自然の流れになると言わんばかりに。ただし、シャーフ氏は「オートマティズム」を大事にする。攻撃は最大の守備であり、守備は攻撃から。そのコンセプトを実現させるためには、攻守の切り替えをスムーズに行いつつ、ボールを持った時にどう攻めるかを実現していかなければならない。そのパターンを何パターンも落とし込んでいく。相手をつけないでトレーニングをしたこともあったという。フォワードだけでなく、多くのプレーヤーが攻撃参加を行うことも一つの例だ。「オートマティズム」を追求していくことで、分厚い攻撃を実現させているのだろう。

「例えばだが、バルセロナはそうだよね。とても質の高いサッカーをする。現代サッカーでは多くのチームが高い位置でボールを奪うことで、攻守の切り替えを早くしているんだ。だから、ボールを奪う際には下がるのではなく、その場で奪うようにトレーニングをしている」

 監督時代には、パスを正確に出すことをトレーニングに落とし込んだという。攻守の切り替えを早くするために奪われた時に取り返すトレーニングも行うことで「オートマティズム」を実現していったのだという。

「そこにフォーメーションというのはあまり関係ないんだよ」

 戦術家であるが、意外にもフォーメーションに対してさしてこだわりがない。ここは、現在ドルトムントで活躍する指揮官のトーマス・トゥヘル氏に近いところがある。ただ、ボールを持った時には連動して11人が動くトレーニングを徹底して実践していたという。では、次に実際のトレーニングでどのように落とし込んでいったのかを練習から垣間見たい。

■正確さとパススピード

 トレーニングは3つのトレーニングを実践。いずれもパスを出し、落として動くという基本的な動作を徹底して行っていた。見学していた参加者からは「これって別に、普通だよな」という声も漏れたほどだった。勘違いしてはいけない。そのトレーニングこそ難しいのだ。現に練習中にミスを連発する練習生たちを見ていると、いかにパスを出す・もらう・動くの三つが大事かを思い知らされる。

 そうすることで受け手と出し手のタイミングが合い、よりオートマティズムにかつ組織的な攻撃を行うことができるのではないだろうか。また、時間が限られている中で参加費2000円でシャーフ氏が全てを教えるともとても思えない。……まあ、文句はここまでにしておこう。

 いずれにしても、基本をとことん大切にし「正確性」を重んじるシャーフ氏らしいトレーニングであったとも思う。他の監督の練習を勉強することが多いというベルデニック氏は、シャーフ氏のトレーニングに対して高評価している。

ベンゲルアーセナル監督)ほどではないけどね、ディフェンスからのビルドアップを熱心に行っていたよ」

 最後の4-2-3-1での練習では、実際にディフェンスからのビルドアップから始まり、サイドバックタッチラインを走って幅を作り、1トップのフォワードもポストプレイのために降りてくる。そこのスペースを突いて攻撃するという組織的な動きを要求される練習を行っていた。普段であればボールを受ける際の向きなども細かく要求するようであるが、時間も限られていたのだろう、そのようなアドバイスをするシーンは皆無だった。

 最後の質問コーナーで運良く私は質問する機会に恵まれた。「サッカーは常に変化している」というコメントに対して私はこう質問した。

「サッカーは常に変わっているとおっしゃったが、その中でコンビネーションなどはこれからも大事になってくるものだろうか?」

 無知を承知で質問したつもりだった。彼は私の質問にこう答えた。

「サッカーというのは11対11で行うもの。もちろん、コンビネーションは選択肢の中に入るだろう。ゴールを多く奪う上で大切なことは『より簡単にプレーをできる方法』と『効果的な攻撃』だ。柔軟にプレーすることが大切だ」

 自分の質問が悪かったことを反省したい。このような機会をいただけたことは、私にとってもとても大きな経験となった。次からはもっと良い質問ができるようにしたいと考えている。

 後日談ではあるが、サッカーの戦術について知り合いと話し合う機会があった。戦術とは選手たちに対して過剰なタスクを要求するのではなく、シンプルで選手たちがやりやすいように整備することこそ戦術なのだと。毎日浦和のトレーニングを見に行っている友人からは「浦和はそういうところがすごくうまい」と話す。一つ、ヒントとなる気がしたのでアウトプットした。

 最後になるが、今回の機会を設けていただいた関係者の皆様方にお礼を申し上げて締めとさせていただきます。ありがとうございました。