殴るぞ

色々と思いっきり話します。

2005年高校野球「背番号11の系譜」

2005年夏優勝:駒澤大学附属苫小牧高等学校(2年連続2度目)

 背番号11の系譜。駒大苫小牧の全国制覇には、背番号11がマウンドで躍動したことによって生まれた。一人は鈴木康仁。決して球速に飛び抜けたものはなかったが、キレのある球を多くの打者が打ちあぐねた。エースの岩田聖司をも食ってしまうほどの存在感が、鈴木にはあった。プロという大きな舞台に立つことこそなかったが、甲子園は時にそういう選手に力を与えてくれる。

 二人目は、田中将大だ。宝塚ボーイズでは捕手だった彼は明治神宮大会でも背番号2で登録されている。しかし、2年春には投手に完全に転向する。「投手・田中将大」としての物語が本格的に動き出した瞬間でもあった。

 その一方で、大会新記録を叩き出した打線はそこにはない。この年の駒大苫小牧は連覇など到底期待できないチームだった。それほど、チーム状態も悪かった。春季大会でも初戦敗退を喫してしまうほどだったので、相当悪かったのだろう。あまりの不甲斐なさに香田監督が激怒して、練習を禁止する。選手の能力は低くない。林裕也は2年時に準決勝でサイクルヒットを記録しているし、エース番号を背負った松橋拓也は最速140キロ台後半を叩き出す逸材。道内どころか全国を見渡しても屈指のチームであることは誰の目にも明らかであった。

 しかし、だからといって勝利することができるかどうかはわからない。全国でも屈指の能力を持つ逸材、大江竜聖擁する二松学舎大学付属が今日敗れたように、一発勝負ではそこに「運」と「勢い」が大事になってくる。そして、それを引き寄せるために大事なのは「意外性」だ。この夏の駒大苫小牧の場合、本当の強敵が大阪桐蔭だけであったことが幸いした。比較的楽な組み合わせに、2回戦からの出場。「運」は間違いなく、そこにあったわけだ。そして、背番号11の躍動が始まる。3回戦の日本航空戦で先発すると、12奪三振を奪う好投。

 続く準々決勝では鳴門工業との対決する。試合は序盤から先発の松橋が崩れて田中がリリーフするという展開になる。しかし、この試合でも12奪三振を奪った反面、中1日の疲労が抜けきらずに7回に3失点を喫する。点差は5点に広がり、連覇は厳しいと誰もが思ったことだろう。しかし、その裏に先頭の岡山翔太が出塁したのをきっかけに一挙6得点を挙げる猛攻を見せて5点差をひっくり返す逆転勝利を決めた。そして、「勢い」がついた。

 運も勢いも。タレント軍団だった大阪桐蔭を大きく上回っていた。辻内崇伸平田良介中田翔。大会屈指の強打者擁する重量打線に大会屈指の好投手。最大の難関といってもよかった。しかしだ。先ほど述べた言葉を思い出して欲しい。「だからといって勝利することができるかどうかはわからない」のだ。

 辻内は序盤からばたついて5失点を喫する。田中も連戦の疲れか終盤に追いつかれたが、それをカバーする吉岡俊輔の好救援でなんとか凌ぐ。延長戦にもつれ込んだ試合は、駒大苫小牧が粘り勝ち。背番号1の松橋拓也は2回戦こそ好投するが、それ以降がパッとしない。主戦投手に選ばれていたのは、何を隠そう田中だったことは誰の目から見ても明らかだった。

 決勝戦京都外大西。疲労困憊になってもおかしくない中、エースの松橋を救ったのは「背番号11」だった。しかし、いつもの田中ではないことは誰が見てもそうだった。そしてそれは、ほかの選手もそうであった。何より、予選から準決勝通して失策0だった守備陣は乱れて、1失策を喫した。それが同点に追いつかれる要因となっている。

 それでも「もう一人の背番号11」、京都外大西本田拓人を打ち崩していく。どちらにドラマを与えるか、野球の神様も悩んだことだろう。結果として選んだのは、田中だったわけだ。そして彼は、9回のマウンドに上がる。5回以外毎回のようにランナーを出して苦しでいた田中はギアを一気に上げる。1番・高原、三振。2番・林、三振。フィナーレが近づいてくる。3番・寺本。2ボール2ストライクからの7球目。外高めに投じられたストレートを空振りした瞬間だった。150キロという数字とともに、連覇を成し遂げた。左右で違うとは言え、「背番号11」が再び優勝へと導いたことは事実だった。

 その後のことは言うまでもないだろう。ニューヨーク・ヤンキースで活躍する田中は日本を代表する投手になっている。その後の恵まれた環境は、あの150キロから始まったといってもいいのかもしれない。野球の神様に魅入られた田中は、高校時代のような荒々しい投手ではなくなっている。洗練された投球が印象的な、素晴らしい投手に様変わりしているのだから不思議なものである。

 チーム状況は最悪だったにも関わらず、連覇を果たした駒大苫小牧にとって。「運」と「勢い」を引き寄せた「意外性」が田中だったわけだ。それも前年に優勝した時の「意外性」が鈴木だったことを考えると、駒大苫小牧の「背番号11」にはそれが隠れているのではないか。そう考えてしまうのだ。何より、2度の優勝がいずれも彼らが大きく貢献したことを考えると、なんとも野球が楽しくなる。そして、甲子園からプロへ。そして世界へと羽ばたいていく様を見て、つくづく人が成長していくさまを見るのが楽しくなる。高校野球には、いつだってそういった魅力が隠されているのだ。

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