殴るぞ

色々と思いっきり話します。

小川徹レポート「兆し」

 恐らく、当ブログで一介の無名選手を取り上げることは初めてだと思う。マッチレポートの前に今回書く小川徹とぼくの関係について書く事としよう。独立して仕事をしたいと思っていた矢先、知人に紹介されたのがきっかけだった。仕事は、名刺のデザインと総合格闘家。会って2時間、ぼくと彼は互いに格闘技について熱く語り合ったことを昨日のことのように覚えている。本来、名刺のデザインのためにアポイントを取ったはずなのに。それに気がついて慌てて30分で作成したのが、その名刺だ。

 その時に、約束したことが一つ。ぼくが彼の試合の記事を書くということだ。専属のライターとして、未だ無名選手である小川徹を追いかけて、かれこれ2年が経過した。ここに来てやっと小川徹のスタイルが徐々に確立されつつあるのではないか。そう思って試合を見ていた。では、そのスタイルとは何か。スタンディングによる戦いである。

 試合中でも幾度も見られたシーンがあった。右フックを大振りする姿。察するに、KOを明らかに狙っているスタイル。相手選手の桑原もそれを分かっていたはずだ。35歳になるベテランもそれを分かっていたのだろう、積極的に距離を詰めてグラップリングに挑もうとしていた。現に2ラウンドでは、相手のホールディングを解けずに苦労するシーンも見られたのを記憶している。

 ただし、決してグラップリングが悪くなっていたわけではないことを付け加えておく。それだけパンチが強く印象に残っていたということでもあるのだ。そして、何よりもそれはプロにとって大きな武器を手に入れたことでもある。

 もちろん、そのスタンディングというスタイルはリスクが伴う。キックをかませば、バランスを崩されて寝技に持ち込まれるし、パンチをかわされてしまうとそのまま抱え込まれて組み合うこととなる。今回の彼は上手く体位を入れ替えることでその課題を解決したが、これがグラップリングのうまい相手であればそうやり過ごすことはできないだろう。

 その一方で、スタンディングは格好いい。パンチやキックが決まればそれだけでもエキサイティングに映る。山本KID徳郁もあのキャラクターに徹底してスタンディングにこだわったことで、周囲からの共感を得た。寝技に比べて分かりやすいというのも利点だろう。プロとして大事なことは勝つことである。そして、「どう勝利していくのか」というのは同じくらい大事だ。今回、彼は一つの形を確立したと言えるのではないだろうか。

 さて、これでランキング入りもようやく見えてきたことになる。その先はタイトルだ。トントン拍子で行くことができるほど、格闘技の世界は甘くない。朴光哲やメーンイベントで見た徳留一樹でさえ、現在は無冠の選手だ。あれだけの実力をもってしても負けるときは負ける。それは小川にも言えることではないだろうか。まだまだ改善すべきところはあることは事実。いかにエキサイティングな戦いをしながらも相手の対策すら上回るくらいの実力をしっかりとつけていくことこそが肝要といえる。

 一つ、先が見えた。たかだか一つかもしれないそこにある道。それこそが彼のスタイル。スタイルは、迷った時に立ち返ることもできる重要な武器だ。武器があるだけでもどれだけ心が強くなるだろうか。そして彼が、迷いなく走りきったとき。ぼくはベルトがそこにあることを祈っている。レッドゾーンに振り切れるまでファイトしたその体を休めつつ、今後の更なる健闘を祈って今回のレポートとしよう。