殴るぞ

色々と思いっきり話します。

強い今井正人が帰ってきた

 高速レースとなった東京マラソンでの優勝タイムは2時間6分ジャストであった。ワールドマラソンメジャーズの一角である東京マラソンで、どうもアフリカ勢に勝利をすることが難しい状況が続いていることは事実だ。これは、何も今に始まったことではない。そんな中で始まったマラソンの代表チームであったが、それでも芳しい成績を上げたとは言い難いだろう。今回の今井正人が2時間7分39秒というタイムを出したとしても。

 たとえばこれが福岡国際マラソンであれば、彼はそのタイムを叩き出していただろうか。サブテン切り、あるいは上位を狙う。そういうレースが展開できていたかどうか。それが問題なのだ。とはいっても、今日はそのことを批判するのはナンセンス。純粋に海外勢と戦う姿勢を見せてくれた上に、海外勢に食らいついた今井正人を賞賛すべきだろう。

 今井が山の神と呼ばれてから早くも8年近くが経過しようとしている。順天堂大学での栄光とは裏腹に、トヨタ自動車九州での彼はもがいていた。平地での際立ったスピードがあるわけでもない彼が苦戦することは必至だったのだろう。気が付けば箱根では無名だった川内優輝中本健太郎らが代表につき、彼自身は世界の舞台に立つことなく30歳になっていた。

 そんな中でも、転機は突如やってくる。別府大分毎日マラソンサブテン切りを果たした前後から、着実に結果が出始めたのだ。ニューヨークシティーマラソンでは2大会連続で上位入賞。ペースメーカーが付かない世界陸上と同等の環境でレースに臨んだことで、元来からあった「強さ」が戻ってきた。昨年、今年とニューイヤー駅伝でも絶好調。まさに期待されて臨んだ今大会、彼は答えを出したのだ。

 本当に「強い」マラソンランナーとして殻を破るレースとなったのである。決してトラック競技で際立ったタイムを残したわけでもない彼が、7分台を出すことができることを証明した。マラソンに挑みたいスピードランナーも焦ることだろう。2時間6分16秒という日本記録を持つ高岡寿成は27分35秒09という10000メートル走の日本記録を持っている。佐藤悠基、大迫傑をはじめとして、近年ではトラックでも27分台が珍しくなくなった。同じだけのポテンシャル、実力のある選手がサブテン切りに苦しむ中で、今井という10000メートル自己ベストが28分18秒15の選手が2時間7分を出した。これをどう受け取るかだと思う。そして、今日の今井をもってしても日本記録を更新することができない。その事実については今後、考えていく余地があることだと思う。

 やっと今井正人が過去から決別をした。彼は本当に強く、いい選手になった。世界で戦う選手の顔つきになってきているのが、テレビの画面越しからもよくわかる。ケニアエチオピアらのアフリカ勢の壁は未だ高く遠いところにある。この壁と戦い続けることは至難の業だ。30となった今井はその壁と戦うために、世界選手権の切符を手にした。小さく積み上げてきた彼の努力、海外での実戦。7位という結果は個人的には不本意だ。けれど、7分を記録した。藤原新の記録を越えた。その喜びもかなり大きいのだ。今井は勝利者になった。そう言い切れる。今回までのすべて努力が結実してこそ、叩き出された記録だからだ。