殴るぞ

色々と思いっきり話します。

きっと川内優輝は箱根で諦めない心を学んだ

 福岡国際マラソン藤原正和が日本人トップ。知っているかい、日本人よ。藤原正和は実はすごい選手だ。初マラソン日本人記録保持者で、学生マラソン日本記録も持っている。経歴だって西脇工業中央大学出身というエリート中のエリートだ。箱根ランナーから実業団になるという姿が多くみられるからかもしれないけれど、「箱根から世界へ」は何も間違っちゃいない。5000メートル走からマラソンまで見てみると、佐藤悠基・大迫傑・宇賀地強はそれぞれが箱根を沸かせたランナーとして知られているし、藤原正和はもちろんだが中本健太郎も実は拓殖大学の駅伝部出身だ。先輩には藤原新もおり、箱根を走った選手はそれなりにいる。堀端や前田は高卒からの叩き上げではあるのだが。九州は駅伝が盛んな地域としても知られており、そういう点では彼らも駅伝で培われたものはあるのかもしれない。

 そして、日本で最も異端なランナーも箱根を走っているのだ。名前は川内優輝。最強の市民ランナーその人である。出身大学は学習院大学箱根駅伝の歴史の中で箱根駅伝出場の記録はない。出走したのは関東学連選抜として。正直に言って、ぼくは彼の大学時代のことは記憶にない。それは関東学連選抜の一選手にしか過ぎなかったからなのか、世代トップの佐藤悠基に隠れていたからなのか。ともかく、学習院大学を卒業した彼は埼玉県庁へと就職して、市民ランナーという一つの形をとってマラソンへと挑むこととなる。

 彼の活躍を今から語ることはしなくてもよいだろう。東京マラソンでの鮮烈な記録、世界陸上への2度にわたる出場、今井正人とのデッドヒート。そして、従来の実業団選手とは異なる練習方法。世界のトップを走るマラソンランナーでも普通はやらない、「フルマラソンに出場する」という練習。実戦感覚を身に着けるために行っているのだろう。いずれにしても練習できる走行距離が不足している分だけ彼流の「ポイント練習」なのかもしれない。

 インタビューでの受け答えや会話の内容を聞いていて思うのは「確固たる自信」が彼の中にあること。一人のランナーでありながら、プロとしてのプライドも見え隠れしている。しかし、ここまで直球で何やら実直すぎる彼の不器用な性格は誤解を招くことも少なくないはずだ。現に思ったことを口にしてしまう発言で怒りを買ってしまうこともある。九電工前田和浩もそのコメントを受けてカチンと来てしまった一人である。実績が付き、自分はこれだけやってきたのだという自負もあったのだろう。思ったことを直球で伝え、レーススタイルも気持ちで走る彼は多少の誤解など問題ない。実際に、彼の人柄に触れた前田はのちに「和解」したほどだった。

 箱根駅伝で6区区間3位という実績があったとはいえ、まさかという思いは当然ファンの中にはあったはず。現に中本も藤原新も、駅伝で目覚ましい活躍を見せたかといわれるとそうでもなかった。むしろ中本は実業団でもマラソンがだめならばあきらめるという状況からのスタートだったのだから、何が起こるかわからないものだと思う。例え華やかな実績を学生時代から残してこなかったとしても、きっちりと積み上げてきたものが結果として宿ったのだ。特にマラソンという種目はそういう種目だと思う。己との戦いであり、常に良いタイムを持った選手が制しているわけでもない。アフリカ勢が結果を残しているとはいえ、その彼らにあって日本人選手にあるものが「粘り」だろう。決してあきらめない、投げ出さない。駅伝で投げ出せばどうなるだろうか。襷がつながらない。だからこそ、最後まであきらめないで走る。あの永井駅伝は結果として「粘り」という大きなものを作り出してきたのかもしれない。

 川内にもそれが受け継がれている。決して最後まであきらめずにすべてを出し切る表情は、どこか箱根駅伝を走る学生たちに近いものがある。だから川内に感動し、応援をしたくなるのかもしれない。大迫傑にも、佐藤悠基にも。絶対にその力はあると、ぼくは信じている。

 来年の世界選手権には出場しない意向を固めた川内。彼は世界選手権では結果が出ていない。そして、オリンピックにも出場していない。徐々に力をつけてきた彼は、これからも成長を続けることだろう。しかし、どこかでまだ勝ちきれない「弱さ」が彼の中にあるような気がしてならない。日本人で一番マラソンを走っているプロランナーである彼でもだ。一回離れて、それを考えてみるのもいいのかもしれない。だが、忘れないでほしい。本当の彼の良さは、気持ちで走るランナーであるということ。

 その根っこにあるものが箱根駅伝であったこと。駅伝は大切なことを、プロのランナーに教えてくれている。諦めないことの大切さを。