殴るぞ

色々と思いっきり話します。

井上尚弥とジェイミー・マクドネルの対戦は非常に絶妙である3つの理由

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「ほう、そう来たか」というのが率直な感想である。

 井上尚弥WBO世界スーパーフライ級のベルトを返上して、バンタム級へと階級を上げた件についてだ。対戦相手の候補として挙がっているのはWBA世界バンタム級王者であるジェイミー・マクドネル。2014年より4年以上にわたってベルトを保持する男でありながらも、防衛回数は6回と少なく、またあまり評価が芳しくない男である。

 日本人にもなじみ深い亀田和毅WBOタイトルを返上して2度対決した事でも知られるイギリス人ボクサーは、他のブリティッシュと同じようにあまり外へと出たがらないボクサーである。思うに、ブリティッシュが日本にやってきたのは西岡vsムンロー以外に無いのではないか。恐らくは興行的にもイギリス人ボクサーはあまりエキサイティングでない事も関係しているのかもしれないが。

 もちろん決して弱い訳では無い。山中慎介を苦しめたリボリオ・ソリスとの対戦経験、亀田和毅やシュテファーヌ・ジャモエ、フリオ・セハと言った実力者にもしっかりと勝利を収めた経験がある選手で、突出した強さは無いが基礎のかっちりした「イギリス人らしい」ボクサーである。

 プロモーターもやり手のエディ・ハーンで、井上を喰えばその分だけメリットも大きいと判断したのだろう。

◆ジェイミー・マクドネルは「食い時」なのだ。

 プロモーターのエディ・ハーンは相当な食わせ者で、かつてはナジーム・ハメドのプロモートを行っていた事でも知られる。指名挑戦者として名前の挙がっていたファン・マヌエル・マルケスとの対戦を22か月も逃げ続けた上で、最後まで対戦しなかった事。現在はアンソニー・ジョシュアや問題児のデレック・チゾラをプロモートしている事でも知られる。

 マクドネルが2014年にタイトルを獲得してから、亀田和毅との世界タイトルマッチでアメリカに進出する事も成功し、都合6度に亘る防衛を記録した。WBAタイトルを返上したものと思ったが、その返上を取り消されて現在もWBA世界バンタム級王者に君臨する選手である。

 ただ、マクドネルが階級を上げるという事は事実であろうし仮に井上に勝利したとしてもスーパーバンタム級に階級を上げる絶好の口実となる。彼が2階級制覇できるかどうかは分からないが、少なくともWBA世界バンタム級王者というブランドを持って戦う相手としてはこれ以上ない相手である。もし負けたとしても、「井上に負けたならば仕方がない」となる。

 つまり、マクドネルは商品として今が最も売り時の選手であり、バンタム級に階級を上げる井上にとっても「ちょうど良い」相手なのである。世界王者でそこそこ知名度はあるが、決してものすごく強い相手ではない。またWBAタイトルを獲得した事で、同じプロモートを受けているバーネットとの対戦交渉に持ち込めるかもしれない。WBOにはゾラニ・テテも居り、WBCに目を向ければルイス・ネリーや山中慎介も居る。正においしい相手と言えるだろう。

◆大橋ジムは元々冒険心の強いジムである事を忘れてはいけない。

 私は別に大橋ジムを礼賛している訳では無いが、このジムの中に流れている一見すると無謀にも見えるマッチメークに時々驚かされる。元々大橋会長がリカルド・ロペスと対戦するような人物というだけあって、時々こちらがびっくりするマッチメークをするのだ。

 例えば、八重樫東ローマン・ゴンサレス細野悟セレスティーノ・カバジェロ井上尚弥にオマール・ナルバエス。そして、川嶋勝重徳山昌守。自らがプロとアマチュアの架け橋になりながらも、政治的な力とタイミングの良さを合わせて柔軟な対応をしてきただけあって、その発想には時折驚かされるほどだ。

 見返り無く思い切った事をする。そこにはリスクも相当ある事だろう。だが、そんなものは関係ないと言わんばかりに平然といばらの道を取りに行くのが大橋流なのかもしれない。既に井上のアメリカデビューは終わっている。バンタム級という壁、そして世界王者。今までの対戦相手の中でも油断ならないだろうが、井上本来の力を持ってすれば勝利は不可能ではないだろう。

 そう。問題はその先にあると言って良い。井上尚弥の冒険はバンタム級をただ獲得しただけでは終わらないはずだ。

◆その先に見える「最強」を目指すために。

 井上尚弥に課された使命は、最強である事だ。間違いなく、彼にはそれに近づく事が出来るだけのポテンシャルを持っている。そして、エイドリアン・ブローナーのような人生の道へと逸れていくような過ちを犯す事は現役中にはしないだろうし、ロレンソ・パーラのように体重超過を犯すような事もしないだろう。

 ソリッドで好戦的な一方、非常にクレバーに試合を組み立てられる男である。何よりも井上は左フックよりも右ストレートが美しい。バンタム級でもその必殺の左よりもそのストレートでどれだけ相手を止められるか見てみたい気もする。

 階級を一つ上げるという決断はそう出来るものではない。それ相応の実力とメンタリティーが備わっていない事にはリスクも生じるためだ。そのリスクと現状の井上の実力から考えて。井上尚弥マクドネルに挑戦するというのは実に絶妙なラインを突いた良いマッチメークになるだろう、という事なのである。

 もし、その上でバーネットが食いついてきたならば、実に面白いが……。まあ、そこはエディ・ハーンの“英断”に期待するとしよう。まあ、バーネットを媒体にして商売をし始めたばかりのハーンが現状、井上とのビッグマッチにかじを切るとは到底思えないのだが。

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