たった1試合で西岡利晃は私を失望させた
思い起こすと、もうあれから5年は経っていることに気がつく。私はまだ大学生で、とあるオフ会で亀田を擁護し、五十嵐に手厳しい論評を書いたところ呼ばれなくなってしまったり、就活で面接官に逆ギレしたり。22にして所詮自分は価値のない人間と絶望したり。中々今振り返るとディープな一年間だったように思う。
だが、あの時期が一番ボクシング熱も高かったし何よりも多くの試合を見ていた記憶がある。もちろん今も見ているわけだが、この時期になると忘れられない試合がある。日本人選手のビッグタイトルマッチだったわけだが、嘘偽りなくその選手を一切応援しなかった試合だった。
ノニト・ドナイレ対西岡利晃。この試合だけは西岡を応援しなかった。コットと亀海が対決したり、井上とニエベスが対決した時には応援していたのにだ。もちろん、試合前から分かっていたことではあった。恐らく西岡はこの試合には勝てない。そして、彼はもう世界王者では無かったからだった。
勘違いしないでほしいのは、私は西岡利晃という選手が嫌いなわけでは無い。ほぼ不可能にも思えた海外での防衛、レンドール・ムンローを始めとする強豪選手たちを相手に圧倒した実力。そして、宿敵ウィラポンに4度も挑戦したこと。彼が成し遂げてきた実績は、他のボクサーと比較しても遥かに素晴らしい。それは判っているのだ。
それでも、この試合は全く持って素晴らしいものでは無かった。5年経過した今でさえ、はっきりと確信して言える。
■そもそも西岡は引退届を出す覚悟があったのか?
まずドナイレと戦うには、2012年当時では引退届を出さなければ戦えないはずだった。当時WBOとIBFに加盟していなかったJBCでは、WBOとIBF王者に挑戦するためにはWBCかWBAの世界王者でなければならなかった。そうでないのならば、JBCのライセンスでタイトルマッチを戦うのであれば、ライセンスを返上しなければならないのだ。形式上でも引退しなければいけないということである。
当時、西岡が持っていたベルトは無い。WBC名誉王者を世界王者のベルトと認める、ダイヤモンドベルトをWBCタイトルとするならば百歩譲って良いだろう。しかし、そのようなダブルスタンダードにも見えるそれは後付けっぽく感じて私は好きになれない。
何より、WBOタイトルに挑戦するためにライセンスを返上した石田順裕や、IBFタイトルに挑戦した高山勝成。WBOアジアパシフィックタイトルと知らずに戦ったことでライセンスをはく奪された大沢宏晋の立場は一体どうなってしまうのだろうか。結局、西岡はドナイレと戦った後に正式に引退している。それまでにJBCのライセンスを返上したという話は聞かなかった。
そもそもだ。ドナイレ戦を熱望しながらも、西岡はライセンスを返上してまで戦いたかったのかどうかが問題だった。西岡はあの試合で勝たなければならなかったのだから。
■どうしようもない凡戦だった。という記憶しかない。
見るに堪えない試合だった。試合中、西岡はドナイレの左フックを警戒するあまり右ガードを高く上げたままだった。まともな攻勢もできず、ロサンゼルスの観客からはブーイングさえ飛ぶほどだった。
最後に少しだけ意地は見せたが、最終的にドナイレは攻撃の幅を見せつけたまま西岡は負けた。その時付けていた採点結果は80-71でフルマークでドナイレ優勢だった。試合終了の瞬間はガッツポーズをしていたのも良く覚えている。勝たなければいけない試合で、西岡は何もできなかった。そう、それが全てだった。
試合後、専門誌では西岡がまるで勝利したかのように賞賛されている記事ばかり目にした。目を疑った。負けたのに賞賛されるのか、と。この試合を見た人ならば分かると思うが、その称賛に見合った試合でなかったことは十分に分かるはずだ。
だからこそ、「西岡は野茂英雄や中田英寿と同じくらい価値のあるレジェンドだ」という評価には全く同意できない。確かにラスベガスでメインは張っただろう。そしてビッグマッチにこぎつけたのだろう。だが、それでも「西岡はレジェンド級の実績は残したが、晩節を汚した男だった」という評価にどうしても私の中では留まってしまう。
なぜなら、負けたのだから。必要以上の罵倒は避けなければならないが、必要以上の称賛も不要だ。負けた人に与えるものは、一つもない。
■結果を出してこそ、初めてフロンティアになり得るのだ。
それから4か月後のことだった。高山勝成が敵地でマリオ・ロドリゲスを下し、海外でタイトルを獲得したというニュースが飛び込んできたのは。日本で試合をできないという覚悟、相手のホームという不利な環境。それでも高山は38戦連続でアウェーで日本人が獲得できなかった世界のベルトを獲得してみせたのだ。
だが、日本のボクシングはその事実から目を背け続けている。それは彼がまだJBCのライセンスで試合をしていなかったから、というのもあったのかもしれない。ミニマム級という階級の問題だったのかもしれない。だが、西岡利晃よりも遥かに高山の方がフロンティアであり、レジェンドだと私は思う。
最後になるが、決して西岡利晃という選手を貶めたいわけでは無い。だが、西岡利晃はフロンティアでは無く、たったその1試合で彼への敬意が一切と言っていいほど無くなるには十分な試合だった、ということなのである。もっとも、私が失望したところで、何も変わるわけがないのだが。
どの業界でも言える事だが、やはり結果を出す人が一番偉いのである。だからこそ疑問なのだ。西岡は本当にあの試合、ノニト・ドナイレと刺し違える形で勝とうとしたのかどうか、ということを。
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