殴るぞ

色々と思いっきり話します。

帝里木下の敗戦に孕んでいる、日本ボクシング界の危機とは。

 マニー・パッキャオとジェフ・ホーンの試合では、前座として日本で活躍しているボクサーが世界タイトルに挑戦した事を皆さんご存知だろうか。名前を帝里木下。3年前にゾラニ・テテとIBF世界スーパーフライ級王座決定戦を行った経験を持つ。かつては日本スーパーフライ級の王者にもなった選手である。

 マニー・パッキャオと同じフィリピン人王者である、ヘルウィン・アンカハスと対戦した今回。強烈な左ストレートを持つアンカハスの前に7回TKO負けを喫してしまった。一部では「予想通り」、「噛ませばかりと戦った結果」、「成長がない」、「引退した方が良い」と彼を批判するコメントが多く並んだ。

 だが、私から言わせれば河野公平久保隼、小國以載に村田諒太も世界戦に至るまでの道のりは大して変わらないと思う。「対戦相手の質が違う」とか、「帝里との比較をするな」という論理は一切、当てはまらない。彼らは皆、試合に戦い勝利をしたという正当な理由を持ってランキングを上げていった。

 つまり帝里が勝てなかったのは、「噛ませ犬」とばかり戦っていたからという理由は成立し得ない。そう考えると世界王者となれるかどうかは、もっと別の所にあるのではないか。今回はそれを考えてみたいと思う。

◆世界王者に必要なものは優れた素質である

 残酷な言い方にはなるが、素質がない者は世界王者にはなれない。想像してみてほしい。フロイド・メイウェザー・ジュニアと私では天と地ほどの差がある。私ではまずボクシングで世界王者になる事はありえないだろう。

 ボクサーに必要なのは、やはりパンチの当て勘とディフェンス能力。アスリート的な資質も決して見逃してはならないと思う。それを考えた時、やはり素質というものは絶対的に必要なものと言えるだろう。

 当然、名護明彦に勝利した戸高秀樹ロレンソ・パーラに3度挑戦した坂田健史のような事例もあるにはある。しかし、やはり粟生隆寛のような突き抜けたセンスや、内山高志のような爆発的なパワーとテクニカルな戦いぶりを見せる選手の方が明らかに世界王者に近い事は事実と言える。

 練習が必要なのは大前提の条件ではあるが、才能ある選手が練習する。これこそが、世界王者に必要な要素なのだ。

◆世界王者に必要なものは優れた指導者である

 どれだけ優れた素質や能力があったとしても、指導者がどうしようもなければその選手がベルトを獲得する事は叶わない。例えば、内藤大助には野木丈司トレーナーが居た。だが、同じ宮田ジムの粉川拓也は32歳になった現在も世界のベルトどころか日本王者を防衛する事もやっとの状態である。

 帝里の所属しているジムは千里馬神戸ジム。かつて、長谷川穂積が所属していたボクシングジムである。ただ、長谷川とコンビを組んでいたのは後に真正ジムを開く事となる山下正人氏。必ずしも千里馬会長のおかげであるとは言えない。

 同じことは小國にも言える。小國が世界王者を獲得する前は兵庫にあるVADYボクシングジムに所属していた。敗戦を機に角海老宝石へ移籍したわけだが、もし小國が兵庫に留まっていればグスマンに勝利できたとは思えない。

 内山も佐々木トレーナーを始めとした優れたスタッフのおかげで、多くのKO勝利を積み重ねてきた。山中慎介も大和心トレーナーが居なければ今の形を創り上げているかは正直なところ分からない。指導者とはそれだけ大切な要素であると言える。

◆優れたノウハウや素材が一極集中型になるのは危険だ

 ボクサーにとってもボクシングジムにとっても、一番の問題点は優れたノウハウが一極集中型になっている点だ。

 福原辰弥が熊本のボクシングジム、田中恒成拳四朗といった地方の選手が世界王者に登り詰めてはいる。比嘉大吾のようなとんがったボクサーから、井岡一翔のような総合力の高いボクサーまで。今の日本ボクシング界はまさに優れた才能で溢れている。

 これが数年前までは、帝拳と大橋ジム、ワタナベジムという顔ぶれだったことを考えると、多くのジムが着実に競争力を伸ばしつつあるのではないだろうか。これも、多くのジム関係者やトレーナーたちの努力があってこそだと思う。

 この流れに乗って行かなければならない。突然変異で現れた逸材だったからとか、たまたま良い指導者に恵まれたで終わらせてはいけないのである。千里馬ジムを批判するわけではないが、この3年で何も成長していないのだとしたら、ジムの会長を始めとするトレーナーの責任も重大だろう。ちょっとしたきっかけから、番狂わせを起こす可能性だってあったかもしれない。

 素質のあるいい選手には、それなりの指導を積ませなければならない。それらを選択できる環境を創らなければならない。安易に引退だとか、噛ませとしかやらなかったと切り捨てる前に、考える事は色々あると私は思う。そして、大袈裟に聞こえるかもしれないが、無謀な挑戦でも無理と切り捨てる前にそれ相応の指導をさせらない事への危機感がない事こそ、日本ボクシング界における最大の危機だとは言えないだろうか。

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