殴るぞ

色々と思いっきり話します。

マニー・パッキャオ「夢の終わり」

 マニー・パッキャオがジェフ・ホーンに敗れて、早くも1週間が経過しようとしている。時が流れるのは早いもので、気が付けばあっという間に時間は経過していく。WBO世界ウェルター級タイトルマッチは、ホーンの国であるオーストラリアで行われた。かつてラスベガスの夜に彩られながら戦ってきたパッキャオが、このようにしてオーストラリアで試合を行うという事は、意外性を持って受け止められた。

 しかし、その理由は明確に露呈されることとなってしまった。ユナニマス・デシジョン。勝者は挑戦者だった。リング誌やESPNでは「議論を呼ぶ判定」と銘打たれ、WBOも採点を検証する旨を発表したが、特に議論を呼ばないだろうし、再戦を行うにしてもオーストラリアでは現実的とは言えない。

 恐らく、次に戦うとしたらラスベガスになるのだろう。しかし、この試合で見せてしまったパフォーマンスは、大きなマイナスだ。到底ラスベガスで相手を飲み込むように勝利し続けた「パックマン」の姿がもうない事を証明してしまったからである。

 思うと、彼も39歳だ。ティモシー・ブラッドリーとのWBOインターナショナルタイトルでピリオドを打っておけば、こうなることは無かったのかもしれない。母国のフィリピンでは国会議員としても働き、ボクシングに専念できる環境ではない事は以前から分かっていたはずだろう。

◆理屈抜きで戦う場所がリングだとしたら

 パッキャオは良くも悪くも、本能の塊だと私は思う。WBC世界フライ級タイトルを獲得した後、彼は遊び呆けるようになりボクシングに打ち込まなくなった時期があった。これはWOWOWエキサイトマッチの解説でも有名なジョー小泉氏も証言しているほどだ。

 一方で、ボクシングに本気で打ち込み始めると、その才能を一気に開花させていった。フレディ・ローチとの邂逅は彼にとってまさしく運命の出会いであったとしか言いようがないだろう。その後の活躍は言うまでもない。

 エリック・モラレスマルコ・アントニオ・バレラと言った強豪のメキシカンをなぎ倒し、リッキー・ハットン、オスカー・デ・ラ・ホーヤ、ミゲール・コットと名王者たちから奪った鮮烈な勝利が色褪せる事は無い。

 そして、フロイド・メイウェザー・ジュニアと宿命のライバルである、ファン・マヌエル・マルケス。特にマルケスとの対決は4度の戦い含め、我々を熱狂させてくれた。

 純粋だったのだ。良くも悪くも自分よりも格上の相手と戦う事で燃える。頂点を極めた男は、次第にその実力を自らの手で曇らせてしまったのだから。

 脱税疑惑、ロサンゼルスでの金銭トラブル。ファン・マヌエル・マルケスとの第3戦目はまさしく最悪のコンディションだったという。だからこそ、ボクシングの神様は怒りの鉄槌を下したのかもしれない。それは、以前書かせていただいた事があった。

 思うに彼は、モチベーションを無くしていたのだと思う。これ以上何を実現すればいいのかという事を。折しも、メイウェザーはパッキャオを避けるように試合をしていた。実現することさえ叶わない戦いに対してもモチベーションが無かったのかもしれない。

 それでも、彼はリングへと戻ってきたのは、その高揚感とファイターであるという本能が強く残っていたからなのかもしれない。

◆もうリングの上で、パッキャオが証明するものは、無い。

 思うに、彼が何故バルガスとブラッドリーに勝利できたのか。それは、とてつもない程のモチベーションがあったからだろう。一度、現役を退くという華を飾る意味でのモチベーション。新たなスタートを切るというモチベーション。

 だが、ホーン戦に向けて彼にモチベーションがあったのだろうか。純粋すぎる程、闘争本能の塊である彼に。

 無いと言ったらうそになるのかもしれない。だが、満たされた生活と名声、英雄という肩書。かつてマニラのホームレスだったフィリピン人王者がこれ以上何を証明すればいいのか私にはわからない。

 オーナーを務めるバスケットボールチームでの余暇を楽しめば良いと思うし、議員としてもしくは将来なるかもしれないフィリピンの大統領として。モチベーションを高めて行けば良いのではないだろうか。

 少なくとも、エマヌエル・ダピトゥラン・パッキャオがこれ以上リングで証明しなければならないものは私には見えない。

 多くの強豪ボクサーをなぎ倒し、結果として6階級で世界王者となった。この事実だけでも、十分である。

 私の感情になるのかもしれないが、勝てないパッキャオなど見たくない。やはり彼は、相手を圧倒し勝利する姿が一番よく似合う男だからである。

 それでも戦うというのならば、私に止める権利はない。しかし、彼に証明できる力もそれほどないのではないだろうか。アミール・カーン? エイドリアン・ブローナー? テレンス・クロフォード? 冗談を言ってはいけない

 彼らに戦って勝利できる姿を、ホーン戦を観て思い浮かべられるだろうか。

◆ただ、一つだけ怖いもの見たさで観たい試合はある。

 一つ、彼が戦っている試合を観たい相手はいる。

 それはかつてのライバル、ファン・マヌエル・マルケスだ。

 44歳になった彼は、ミゲール・コットとスーパーウェルター級で対決するのではないかという噂がある。37歳のコットが、既に試合から離れて3年経過している名手と対決するというのはいささか興味深くはある。

 ただ、マルケスが勝利できるかと言えばノーだろう。

 それよりも、互いのラストファイトとして。あえて見てみたい。

 マルケスとパッキャオが対戦するところを。実現しないという事は承知の上でだ。当然、馬鹿げた話である。

 それでも、二人が対峙している時だけ、全盛期の二人に戻ったとしたら。

 ロッキーのような有り得ない話なのかもしれない。だから、もうやめよう。全盛期を見る事はいつでもできる時代だ。YouTubeを開けば、いつだって全盛期のパッキャオに出会えるのだから。

 だから、二度目の別れを言おう。次は私たちの夢で、あなたの激闘に会えることを祈りたい。

 グッドラック。

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