殴るぞ

色々と思いっきり話します。

永井謙佑「Time is running out」

 ドイツ語でWunderという単語がある。英語に訳すと「素晴らしい、奇跡の」という言葉だ。Wonderという単語をドイツ語化させたものである。かつてオーストリア代表はWunderteam(ヴンダーチーム)、奇跡のチームと呼ばれていた。奇跡のチーム。ワールドカップ制覇でさえ夢ではないと言われた。事実そうだったと思う。ワールドカップが1934年でなければの話だが。

 第2回FIFAワールドカップはイタリアで行われ、時の権力者ムッソリーニが審判を明らかに買収したことで「史上最低のワールドカップ」と言われている。しかし、当時はそれを知るためのツールさえなかった。オーストリア国民は代表の敗戦を受け入れられず、失意の帰国となった代表選手たちをPlunderteam(プルンダーチーム)、和訳すると古着のチームと呼び酷評したとされる。

 ちなみにだが、ワンダーと言えばサッカーファンには記憶に新しいところで言うと、マイケル・オーウェンだろう。私は、彼に限りなくポテンシャルが近かった選手のことを記憶している。今も現役なのだ。

 しかし、彼はWunderから次第にPlunderになりつつあるような気がしてならない。

 名前は、永井謙佑という。

 ロンドンオリンピックでの活躍を覚えている人も多いことだろう。1トップに入った長いが相手選手たちをどこまでもチェイジングし、自慢の快足をどこまでも見せつけて世界を驚かせたあの大会だ。個人的にスペイン代表に勝ったことだけは気に食わないが(偏見である)、まさしくあの時の永井は輝いていたように思える。

 スピード違反と呼ばれる快足は、最高速度時速33.7キロ。世界最速と噂されるピエール=エメリク・オーバメヤンでさえ時速29.1キロと考えると、その健脚はオーバメヤンよりも遥かに速い計算となる。ちなみに、ウサイン・ボルトが世界最速タイムを出した時の時速は37.5キロだが、30メートルまでと考えると実はオーバメヤンや永井が遥かに速いのだ。

 しかしだ。現状、永井が日本代表候補として上がることはない。オーバメヤン浅野拓磨と同じような俊足プレイヤーだというのに。恐らくだが、今後上がることもないだろう。彼を活かすことができる監督が居れば、もしかしたらまた呼ばれるかもしれないが、恐らくその望みさえ捨て去らねばならないときが来るかもしれない。

 なぜか。永井はどうしようもないくらいバカだからである。

 ハリルホジッチが日本代表監督になってから、彼が起用されたときのことを思い出してほしい。彼は右ウィングに居た。もちろん、慣れていないというのはあったことだろう。しかし、自慢のスピードを持て余し、チームに対して何一つとして貢献できるような場面は皆無だった。川又堅碁もイマイチだったことは否めないが、それでもそれなりの活躍はしていた。もっとも、川又の場合はまた話が別になってくるが。

 確かに、サイドに置きたくなる理由も分かる。あれだけのスピードという才能を持った選手だ、サイドで使うことができればどれほど嬉しいだろうか。事実、西野朗氏や篠田善之監督は永井をサイドで使うのは、確実に永井のスピードを活かしたいがためだろう。

 ところが、永井はサイドでのプレーはお世辞にもうまくない。攻守両面で重要なタスクを任されることが多い近年のサイドプレイヤーで、永井のような戦術理解度に乏しい選手を起用することは、リスク以外の何物でもない。事実、日曜日に行われた浦和レッズ戦でも、確かに彼のスピードは驚異だったが、攻撃にも守備にも絡んできた記憶があまりない。

 あれもやれ、これもやれでは永井は輝くことができない。しかし、前線に置いたときは特別だ。彼を中心としたチームを作り上げれば、永井謙佑という選手は恐ろしい点取り屋に変貌するのだ。が、当然対策は練られやすい。献身的なチェイジングができる永井を利用してブロックを作ってしまうことで、自慢のスピードを封じ込めることができる。現に韓国代表はそうすることで日本の戦術を封じた。

 良くも悪くも、永井は分かりやすいし、対策を練りやすい。しかし、永井には改善できるだけの選手としての幅も戦術理解度も持ち合わせていない。いつしかスピードスター枠はサンフレッチェ広島から出てきた、ジャガー浅野に奪われてしまった。ドイツの地で成長を続ける新たな「Wunder」は、サイドでもプレーをしており、幅を広げている。

 ベルギー移籍で全てが狂ってしまったのだろうか。それとも元々そういう選手だったのかまでは分からない。ただ確かなのは「Wunder」だったその才能は、紛れもなく「Plunder」と化していることだけは事実である。

 似ている選手を私は良く知っている。アーセナルに所属するウォルコットだ。考えることが減る中央のポジションならばある程度は活躍できるが、スペースがないと苦しい。彼もまた、永井と同じような苦しみを味わい続けているのだ。

 才能を埋もれさせていくのか、それとも生き残るのか。永井謙佑は今年で28歳となった。本当に残されている時間は、少ない。

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